熱効率は、エンジンに投入された熱エネルギーがどの程度まで仕事して外部に取り出すことができたかを示す値である。すなわち熱効率は、外部に取り出すことができた仕事量Wを投入した熱エネルギー量Qで割った値を%表示したものである。蒸気機関(steam engine)の熱効率は、水蒸気を理想気体と見なして蒸気機関の動作プロセスを分析することで推定することができる。
熱から力学的仕事を取り出す熱機関(heat engine)としての蒸気機関に投入される熱エネルギーは、蒸気機関に最初に投入される高温水蒸気が持つ熱エネルギーのことである。そして外部に仕事を取り出すプロセスが終了した後に残る低温水蒸気の持つエネルギーは最終的にはムダに捨て去られることになる。すなわちsteam engineの動作原理は、熱機関としては下記のようなプロセスから構成されている。
(1) Steam Engineへの高温水蒸気の注入(seam engineへ熱エネルギーを注入するプロセス、すなわち、高温熱源からsteam engineが熱エネルギーを吸収するプロセス)
(2) 高温水蒸気を利用した力学的エネルギーの取り出し(seam engineを利用して熱エネルギーを力学的仕事に変換するプロセス)
(3) 力学的エネルギーを取り出した後に残る低温水蒸気の廃棄(外部への仕事の取り出しに使うことができない熱エネルギーを系の外部に捨て去るプロセス)
(2)のプロセスにおいてニューコメン機関やワット機関が1行程でなす仕事量W[J]は、ピストンに働く力をF[N]、ピストンに働く圧力をP[N/m2]、ピストンの断面積をS[m2]とすると、F[N]=P[N/m2]×S[m2]であるから、W[J]=∫Fdx=∫PSdxとなる。
ピストンに働く圧力Pが一定であれば、ピストンの長さ(有効行程)をL[m]とすると、仕事量W[J]=PSLとなることからもわかるように、蒸気機関がなす仕事量Wは、圧力Pが大きくなればなるほど大きくなる。また蒸気機関がなす仕事量Wは、シリンダーの断面積S、ピストンの長さLが大きくなればなるほど、すなわち蒸気機関のエンジン部の容積V=SLが大きくなればなるほど大きくなる。
それゆえ蒸気機関の出力を上げるには、利用する水蒸気圧を上げるか、シリンダーの断面積Sやピストンの長さLを大きくして蒸気エンジン部を大きくする必要がある。下記の表に示されているように出力の増大にともなって水蒸気圧が上昇している。
(3)のプロセスは、ニューコメン機関(Newcomen Engine)やワット機関(Watt Engine)はシリンダー内部の空気を排気するために水蒸気を利用しているが、排気のために利用された水蒸気の持つ熱エネルギーは仕事の取り出しには使われずムダに捨て去られることを意味している。すなわち、仕事を取り出すために使用された作業流体としての水蒸気を何らかの方法で低温熱源に接触させ冷却して水に戻す過程(復水過程)で、外部に仕事を取り出した後に残った水蒸気の熱エネルギーQL=nCvTL[水蒸気のモル数:n、水蒸気の定積モル比熱:Cv、水に戻される直前の水蒸気の温度:TL]はムダに捨て去られる。
ニューコメン機関ではシリンダー内部に冷水を噴出させることで水蒸気は冷却されて水に戻され、ワット機関では分離凝縮器(separate condenser)で水蒸気が冷却されて水に戻されるが、そうした復水過程で失われる水蒸気の熱エネルギーは外部への仕事の取り出しには利用されず、ムダに捨て去られることになる。
エンジンに投入された熱エネルギー量は、「高温熱源から取り入れた熱エネルギー量」QHに等しい。「高温熱源から取り入れた熱エネルギー量」QHを用いて外部に仕事をするのであるから、「外部に取り出すことができた仕事量」Wと「最後に低温熱源に捨て去る熱エネルギー量」QLの合計値はQHと等しいか、それ以下となる。それゆえエネルギー効率eは、下記のようになる。
熱効率e=W/Q≦(QH-QL)/QH=1-QL/QH
蒸気動力機関では、QHはエンジンに最初に投入された高温水蒸気という形態の水分子がもつ熱エネルギー量であり、QLはエンジンに残った低温水蒸気という形態の水分子がもつ熱エネルギー量であることからすぐにわかるように、QH∝TH、QL∝TLである。
それゆえ
となる。それゆえ熱効率eは、高温熱源の温度THが高ければ高いほど、また低温熱源の温度TLが低ければ低いほど高くできることになる。
こうした視点から見ると、低温熱源の利用をエンジン外部で行うワットの分離凝縮器(Separate Condenser)の特許は、より低温の熱源を利用してTLを下げることで熱効率eを上げようとする技術的試みとして理解することができる。
また下記の表に示されているように、19世紀以降における高圧水蒸気の利用は、理想気体に関する状態方程式PV=nRTから導出されるT=PV/nRの式からわかるように、より高温の熱源を利用してTHを大きくすることで熱効率eを上げようとする技術的試みとして理解することができる。
|
水蒸気圧 |
水蒸気
の温度
(℃) |
出力 |
蒸気機関のタイプ |
蒸気機関車 |
16 |
350 |
1280馬力 |
レシプロ型
(シリンダー=ピストン型) |
戦艦大和 |
25 |
32.5 |
4基合計で
15万馬力 |
タービン型 |
石炭火力
発電所 |
247 |
600 |
136万馬力 |
原子力
発電所 |
67 |
284 |
184万馬力 |
LNG船 |
61 |
515 |
3.7万馬力 |
[出典]ターボ機械協会(2007)「蒸気タービン」(http://www.turbo-so.jp/turbo_descript/turbo_for_kids05.htm)の表1を基に、単位や表記を変更した。
上記の表にも示されているように、原子力発電所の蒸気タービンで用いられている水蒸気の温度や圧力は、熱源として利用する核燃料棒の被膜の耐熱性の問題のため、、火力発電所の場合よりもかなり低い。(温度は約半分、水蒸気圧は約1/5である。)そのため原子力発電所の熱効率は、火力発電所の熱効率よりも低い。