三輪茂雄氏の臼による製粉技術の発達構造に関する見解

三輪茂雄『石臼探訪』クオリ、1978年,p28
「なぜ、上記の図で挽き臼と搗き臼を同種のものとして扱っているのか?」に関する三輪氏の見解
「本書の主題である石臼(正確にいえばロータリーカーンあるいは石の挽き臼)と、搗き臼は一見、およそ別物にみえる。原理も構造も全くちがっている。筆者も初めはあの中央に穴ぼこのあいただけの搗き臼を詳しく調べてみる価値があるものとは思っていなかった。しかし石臼を調べるときにあわせてみていくうちに、何か地方色があることにまず気づいた。また穀物の調製(脱ぷ、精白など)や製粉が杵と臼だけでも完全に遂行できる事実について、実験的に検討してみた。その結果、杵と臼は作業方法によって次の3つの機能特性を発揮することを明確にすることができた。
@ 単粒粉砕の条件……臼に少量の穀物などを入れてつくか、多量に入れても、強い力で搗けば杵は粒子層を貫通して、粒を粉に粉砕することができる。製粉はこの条件で行なわれる。
A 集合粉砕の条件……臼にかなり多量の穀物を入れて搗く場合には、杵は粒子層を貫通せずに粒子層の途中で止まる。このとき杵の衝撃力は粒子層の中に分散し、粒子同士が互いに粒子表面で摩擦し合う。表面をわずかにぬらすことによって、表面摩擦係数が増すとともに表層が歌かくなり、粒子表面にかかる剪断(せんだん)力によって、粒子表面がはがれる。米の脱ぷ、精白はこれである。
B すりつぶし条件……杵を押しつけながら回転させると、すりつぶしが行なわれる。小麦粒は@の方法でも粉砕できるが、粒に弾性があるので、むしろ、すりつぶした方が粉砕しやすい。挽き臼とすりばちはこの機能特性を発達させたものと考えられる。
臼の原始形態は石の杵と臼であり、これを基本として@〜Bの機能特性を分化発達させてゆく過程で、人類は多様な臼類(mills)を生み出した。『臼』(49―53ページ)に筆者試案Iを示したが、それを多少修正したものを、ここに試案IIとして掲げておく。万能の搗き臼と単能の挽き臼やすりばちなど、このように理解すると、臼類の進化論が成り立つのである。」
三輪茂雄『石臼探訪』クオリ、1978年,p27,p.29