水車技術の歴史(1) --- 水車技術の歴史的発展構造の技術論的分析
水車技術の歴史(1) ---- 「技術史」講義シリーズ
水車関連技術の歴史的発達過程の概略・・・・揚水車+動力水車
水車技術の歴史的発達過程を理解するための技術論的視点
「作業装置としての水車」=「揚水車」の技術史的位置
動力水車の技術史的位置づけ
動力水車の技術的起源に関する技術論的考察
横型動力水車から縦型動力水車という技術発展に関する技術論的分析
水車関連技術の歴史的発達過程の概略・・・・揚水車+動力水車
(1) 水車関連技術の登場時期をめぐる諸見解
A>平田寛、ホワイト説・・・・最初の動力水車は横型水車
「
最初の[動力]水車は、疑いなく横型で、ひき臼に固定された垂直の軸のまわりを回っていた。しかし、一般に紀元前1世紀末とされているヴィトルヴィウスの書物は、臼の垂直な軸と水車の水平の軸を連結する歯車を持った下掛け[動力]水車の説明を与えている。
・・・おそらく横型水車の原型は蛮族の発明であろう。ユトランド地方の2カ所のダムの精密な発掘の結果、1カ所はキリストと同時代、1カ所は少しあとのもので、沖積土の状況は垂直軸の水車の跡としか考えられないものであった。そのうえ中国でも、紀元後31年の同様な横型水車が見いだされる。これは垂直な軸の上方にある車に遠心ペグと紐がついていて、鉄の溶鉱炉のふいごを駆動した。
このように最初の動力機械が地中海沿岸地方、デンマーク北部、中国のように互いに遠く離れた諸地域でほとんど同時に出現しているという事実から、おそらくローマ帝国の東北方にある未知の中心から水車が伝播したものと思われる。
」ホワイト『中世の技術と社会変動』思索社,pp.100-101
cf.平田寛『失われた動力文化』岩波新書、pp.142-143
B>レイノルズ説・・・・地中海世界では紀元前1世紀頃に縦型動力水車・横型動力水車・ノーリア揚水車(自動揚水車)が同時に出現
「現存する証拠に基づけば、縦型下掛け水車、横型水車、ノーリアは紀元前1世紀の地中海世界においてほとんど同時期に現れ、また、中国においてもほぼ同時期に水力原動機が開発されていたようである。同時発生的であること、初期の証拠が乏しくて曖昧なことから、歴史家たちはこれらの装置相互の間にさまざまな関係を推定してきた。」レイノルズ『水車の歴史』平凡社、pp.25-26
(2) 先行技術としての揚水車技術
水車技術の歴史的発達過程を理解するための技術論的視点
(1)「揚水車」と「動力水車」の技術論的区別と位置づけの問題 --- 揚水技術と動力水車技術の技術史的連関
「作業装置としての水車」=「揚水車」
「作業機を構成する主要な機械要素としての水車」、「揚水作業のための機械要素(機械的揚水装置)としての水車」
vs
「動力機としての水車」=「動力水車」
「水の運動エネルギー(あるいは位置エネルギー)を水車の回転軸まわりの回転運動エネルギーに変換するエネルギー変換装置」としての水車
揚水車も動力水車も、単にその物理的形状だけに注目するならば、物理的には本質的な違いなどないようにも思える。すなわち、
水
(ミズ)・
車
(クルマ)というその物理的形状だけから見れば、どちらも同じようなものであり、取り立てて区別して論じる必要はないように思える。それゆえ水車技術史の記述において、揚水車技術の歴史と動力水車技術の歴史を取り立てて明確に区別する必要はないようにも思える。
そのことは、レイノルズが述べている「現存する証拠に基づけば、縦型下掛け水車、横型水車、ノーリアは紀元前1世紀の地中海世界においてほとんど同時期に」(レイノルズ『水車の歴史』平凡社、p.25)現れたという歴史的事実によっても裏付けられているように思える。
しかしながら、技術論的には揚水車と動力水車は、性格の違うモノとしてはっきりと区別すべきである。というのも、揚水車は「車」(wheel)部に取り付けられた箱(あるいは桶)で水を汲み上げるという作業をおこなう
作業「機械」
であるのに対して、動力水車は水の運動エネルギー(あるいは位置エネルギー)を水車の回転軸まわりの回転運動エネルギーに変換するエネルギー変換装置として
動力「機械」
として位置づけられるものだからである。また揚水車は基本的にはそれ自体で相対的に完結した独立機械であるのに対して、動力水車は作業機械と結合されて初めて現実的に機能する独立機械である。
<注>
ノーリア水車のような
自動揚水車
は流水の運動エネルギーを動力源として「車」(wheel)部を回転運動させるという
「動力水車」的要素
と、「車」(wheel)部に取り付けられた箱(あるいは桶)で水を汲み上げるという作業をおこなう
「作業機械」的要素
という二つの要素を合わせ持つということから
「自動」
機械装置と呼ばれるのである。
(2) 「動力要素の内的発展」と「動力−伝達−作業−制御という四要素の分化と結合」という複眼的視点の問題
水車技術の歴史的起源および歴史的発達過程に関しては、複眼的視点から議論する必要がある
「作業装置としての水車」=「揚水車」の技術史的位置
「作業装置としての水車」すなわち「揚水車」の技術史的位置づけに関しては、
揚水装置の技術史
および
「作業装置としての車の技術史」
の項目を参照のこと(どちらの項目のWebページも現在作成中です。しばらくお待ち下さい。)
動力水車の技術史的位置づけ
古代における水のエネルギーの利用の形態・・・・補助的利用にとどまる
正確には、水流体の位置エネルギーや運動エネルギーを動力エネルギー源とするもの
水車以外にも、水テコなどによる原動力としての水力利用がある。(cf.レイノルズ『水車の歴史』p.19)
動力水車の技術的起源に関する技術論的考察
(1)動力水車を必要とした作業 --- 製粉作業
「古代における製粉技術の歴史」の項目を参照のこと
(2)製粉装置の内的発展の結果としての動力水車
各種製粉装置における<作業機要素の構造の共通性>
手回し回転石臼
↓
畜力回転石臼
↓
水力回転石臼T
(横型動力水車)
↓
水力回転石臼U
(縦型動力水車)
(3)縦型動力水車の技術的起源・・・・2種類の揚水車技術をルーツとする動力水車
足踏み式人力揚水車
↓
↓
水力揚水車(ノーリア水車)
↓
↓
↓
畜力揚水車(サキヤ水車)
↓
↓
↓
↓
(縦型水車)
(歯車装置)
↓
↓
↓
↓
↓←←←←←←
←←←←←←←←
←←←←←↓
↓
↓
縦型動力水車
ウィトルウィウスは縦型下掛け水車の作動をノーリアによって説明している。
歯車は紀元前3世紀に、ヘレニズム時代のエジプトで既に使用されていた。
横型動力水車から縦型動力水車という技術発展に関する技術論的分析
(1)動力水車の発達過程の評価視点 --- 構造的問題
「どのような伝達装置と結合されたのか?」
「どのような作業機と結合されたのか?」
「どのような制御装置によって制御されたのか?」
(2)「伝達装置との結合のあり方」という評価視点
A 横型水車(水平型水車・垂直軸型水車)=伝達部が未分化
<水車という動力装置>と<回転石臼という作業装置>が、回転軸を共有することで直結されている
B 縦型水車(垂直型水車・水平軸型水車)=伝達部が歯車装置として相対的に独立
<水車という動力装置>と<回転石臼という作業装置>が、<歯車という伝達装置>を媒介として間接的に結合されている
水を水車にかける位置の差異に基づく縦型動力水車の区分
縦型動力水車は、水を水車にかける位置によって下記のように3種類に区分することができる。
下射式水車(undershot water wheel)
水車の下部に流水をあてて回す水車。下掛水車 とも呼ばれる。
中射式水車(breastshot water wheel)
水車の中央 部に流水をあてて回す水車。胸掛水車とも呼ばれる。
上射式水車(overshot water wheel)
水車の上部に流水をあてて回す水車。上掛水車とも呼ばれる。
下射式水車
中射式水車
[出典]
http://en.wikipedia.org/wiki/File:Undershot_water_wheel_schematic.png
[出典]
http://en.wikipedia.org/wiki/File:Breastshot_water_wheel_schematic.png
上射式水車(1)
上射式水車(2)
[出典]
http://en.wikipedia.org/wiki/File:Overshot_water_wheel_schematic.svg
[出典]
http://en.wikipedia.org/wiki/File:Pitchback_water_wheel_schematic.png