1970年代後半期におけるマイクロプロセッサー利用状況 — 雑誌Byteの読者を対象とした機械語利用経験のあるコンピュータのCPU種別

Helmers, C. (1977)”Surveying the Field”Byte,May 1977, Vol.2 No.5, pp.6-9に雑誌Byteの読者を対象として1976年10月から11月にかけて実施されたアンケート調査のいくつかの結果が紹介されている。
 
その中の一つに、機械語あるいはアセンブリ言語を利用した経験のあるコンピュータのCPU種別を調べた結果がある。その結果は下記のようになっている。アンケート調査に答えた読者の総数は1,448名である。
 
Any large computer 51%
Any minicomputer 59%
Motorola 6800 23%
MOS Technology 6502 11%
Intel 8080 42%
Zilog Z-80 8%
Intersil IM6100 5%
Digital Equipment LSI-11 13%
RCA 1802 4%
Signetics 2650 2%
National PACE 4%

上記に示されているように、大型計算機で機械語あるいはアセンブリ言語を利用した経験のある読者が51%、ミニコンで機械語あるいはアセンブリ言語を利用した経験のある読者が59%となっているにも関わらず、マイクロプロセッサのCPU種別で見ると、Intel 8080が42%と他を圧倒して多く、LSI-11がZ-80や6502よりは多いものの、13%とIntel 8080の約3割にとどまっている。これは少し意外な結果に思われる。
こうした理由の一つは、LSI-11の総合的な価格対性能比が低いことにあると思われる。例えばLSI-11に関して、Hill,C.(1977) “The Types and Uses of Direct Access Storage”Byte,January 1977, Vol.2 No.1, p.64で下記のように、同価格帯の他のシステムと比較した場合のシステム性能の低さ(システム設計の悪さ)が下記のように指摘されている。すなわち、同価格でIntel 8008では外部記憶装置としてフロッピーディスクが使えるのに、LSI-11ではカセット・テープになってしまう、そのためカセット・テープのデータ転送速度がボトルネックとなる、という致命的な問題を指摘している。
A computer’s potential may be largely wasted without good IO. I contend that a lowly 8008 processor with 16 K bytes and 300 K byte floppy disk will outperform an LSI-11 with 16 K words and 300 K bytes of serial cassette as a general purpose system. The LSI-11 is more than 10 times as fast as a processor, has a much much better instruction set, twice as much memory, and uses its memory better; but nevertheless most of the time it will be waiting on 10 from the cassette. A waiting processor is a wasted processor. There is not even much price difference in the two systems; it is just where the money is spent.
 
また上記の記述「プロセッサーとしては(8008の)10倍速い」が正しいとすると、LSI-11は8080との比較では価格差に見合うだけのスピードがないように思われる。(Intelによれば、8008が0.06MIPSで、8080は0.64MIPSである。したがって8080は8008の約10.7倍のMIPS値である。)
なお McCallum, J. (2003) “CPU Price Performance 1944-2003” http://www.jcmit.com/cpu-performance.htmでは、著者独自の正規化された値であるが、MITSのAltair8800が0.028MIPSであるのに対して、DEC PDP-11/03 (LSI-11搭載、$3,000、動作周波数2.5MHz、1975)は0.01852MIPSとされている。したがってIntelの8080を使用したAltair8800の方が、LSI-11を使用したDEC PDP-11/03の1.5倍も速いということになる。

LSI-11は、C. Gordon Bell, J. Craig Mudge, John E. Mcnamara(1978) Computer Engineering: A Dec View of Hardware Systems Design, Digital Pressのp.335のTable 2. PDP·11 Circuit Technology and Data Pathsに示されているように、レジスターは8bitであったし、data pathも8bit幅であり、16bitのoperandは2CPUサイクルで実行する必要があった。
 LSI-11のプロセッサは、Western DigitalのMCP-1600というマイクロプロセッサを利用したものであるが、MCP-1600はWestern Digital(1977) MCP-1600 Users Manual, p.1-1に書かれているように、ROMに搭載したマイクロコードで既存コンピュータのエミュレーション動作を可能な”8-bit microprogrammable computer”である。内部構成は”8-bit internal organization”であったが、外部アクセスは16bitであったので、8bit CPUで16bitコンピュータのエミュレーション動作を行うことが可能であった。

ちなみに、同じPDP-11シリーズでLSI-11以外の16bit CPUを利用したマシンでは、DEC PDP-11/40($40,000,動作周波数7.143MHz, 1973)が0.06667MIPS、DEC PDP-11/04($10,000,動作周波数3.846MHz, 1975)は0.05185MIPS、DEC PDP-11/70($80,000,1975)は0.67MIPSとなっている。

図の出典はDEC (1976) PDP 11/04 Systems Manual, p.1-3
図はPDP-11/04(1975)用のCPUユニットの写真である。

 
またサポートしているメモリ空間は、8008がメモリアドレス空間が14ビット=214=16KB、8080およびLSI-11がメモリアドレス空間が16ビット=216=64KBである。そのためより高性能なマシンを求める傾向が強いByte読者の多くにとって、LSI-11は8008に比べれば価格はさておき性能的には良いが、8080との比較ではサポートしているメモリ空間が同じであり、価格差に見合うだけの魅力がまったくないように思われる。
 
Byte,January 1976, Vol.1 No.11, p.41の広告では下記のように、DEC LSI-11が $840に対して、8080を用いたIMSAI 8080が$559.95となっている。
またByte,January 1977, Vol.2 No.3, p.66の広告では下記のように、DEC LSI-11/4K Moduleの価格$800は、Z-80 COMPUTER SYSTEM with RAM/PROM Module,Cabinet & Expansion P/C Backplane Controls and Power Supplies, Manualsという数多くの関連モジュールを統合したZ80製品システム価格($395)の2倍にもなる。(なお8080/6800 CPU Board $130, Z80 Processor Board $150, 4K RAM $100となっている。)
これらの広告に示されているように、DEC LSI-11は相対的に高価格のCPUである。

Byte,January 1976, Vol.1 No.11, p.41 Byte,January 1977, Vol.2 No.3, p.66
 
なおByte,January 1978, p.34の下記広告では、LSI-11を用いたシステム価格$3,350の紹介がなされている。
Heathkit H11($1,295)を中核とする本製品システムは、「ホビイストをターゲットとした数少ない完全16ビットのパーソナル・コンピュータ製品システムの一つである」(It’s one of the few FULL 16-bit personal computers available to hobbyists today, and equivalent commercial versions would cost literally thousands of dollars more!)と下記広告では書かれているが、こうしたコンピュータ製品システムは、コモドール、タンディ、アップルなどのPC製品が対象とするユーザー層にとってあまり魅力ある製品ではない。
雑誌Byteが対象とするpersonal computing用コンピュータのユーザーにとっても同じことが言える。

下記のように多くの既存ソフトウェアが動くことは確かに重要であるが、それがミニコンユーザーとっては意義のあることかもしれないが、PC製品ユーザーにとってどの程度まで重要であったのかには疑問が残る。
特に1978年の時点でなお、紙テープでこれらのプログラムが提供されているということは製品の競争優位性の視点で問題である。

ED-11 editor
PAL-11 S relocatable assembler
LlNK-11 S link editor
Absolute Loader
ODT-11X debug
IOX LP I/O executive program
DUMP-AB-PO
DUMP-AB-PB
plus BASIC
FOCAL

MOS TechnologyのCPU6502の価格-最初は$25、1981年には$4

6502の初期の価格 $200
Santo, B.(2009) “25 Microchips That Shook the World” IEEE Spectrum, May 2009,p.35
6502はその競合CPUより高速に動作しただけでなく、より安価であった。インテルの8080やモトローラの6800が共に200ドル近くで売られていたのに対して、6502は25ドルで売られていたのである。
“The 6502 wasn’t just faster than its competitors—it was also way cheaper, selling for US $25 while Intel’s 8080 and Motorola’s 6800 were both fetching nearly $200.”

1981年における価格 $4
Raskinのメモによると、1981年に6502は$4、6809は$12、68000は$90である。なおキーボードの価格$20、64KBのRAMの価格$80に比べて、6502の価格は相対的に極めて低価格であった。
典拠:Jef Raskin, “Preliminary Cost Investigation” (27 September 1979)– in “The Macintosh Project: Selected Papers from Jef Raskin (First Macintosh Designer), Circa 1979,” document 5, version 1.
Location: M1007, Apple Computer Inc. Papers, Series 3, Box 10, Folder 1.
http://library.stanford.edu/mac/primary/docs/bom/cost.html

Raskinによる1981年当時における製造コストの見積もり

部品 コスト
キーボード 20
CPU 6502 4
6809 12
68000 90
64KBのRAM 80
ビデオ・チップ 15
モデム・チップ 20
ケース 15
電源 15
マザーボード(pc board) 12
その他 25
小計 214
組立費、テスト費用(build, test) 10
ディスク・ドライブ 80
ディスプレイ 40
プリンター 50
総計 346