1970年代中頃の日本におけるマイコン・キット

日本におけるマイコン・キット ー 1976~1978年 ー
 
マニア向け「商品」として好評を博した技術者向け「評価用キット」- 専門技術者層を超えたコンピュータへの憧れの存在
 現在ではパソコンの心臓部として欠くべからざる重要部品であるCPUは、その登場時は「マイクロコンピュータ」と呼ばれていた。その当時は、現在とは異なり性能が低かったこともあり、CPUが一体何の役に立つのか、まだはっきりとはしていなかった。
 そのためCPUは関連技術者に対して、それがどのようなものであるのかを理解してもらうことや、コンピュータとしてのその性能がどの程度のもであるかを評価してもらうことを目的とした「マイコン・キット」として売り出された。本来は技術者向けの評価キットであったのだが、下表のようにコンピュータが普通の個人にもなんとか手が届く値段で手に入るということで、マニアを中心として大変な人気を博した。
 先行したアメリカでは、数多くのマイコンクラブが作られていた。そのマイコンクラブの中での伝説的存在が、1975年3月に第1回目の会合を開催したThe
Homebrew Computer Club
[brewとは醸造酒のことであり、home brewは自分で酒を作ることを意味する。そこから転じて、この文脈ではコンピュータを手作りするクラブという意味である]であった。The
Homebrew Computer Club
には、後のアップル社を作り上げたスティーブン・ジョブズやスティーブン・ウォズニアックなどパソコン業界の数多くの有名人が所属していた。
  「マイコン」はマイクロコンピュータの省略形であると同時に、マイ・コンピュータ(個人用コンピュータ)の省略形でもあった。高くて個人にはとても買えそうになかったコンピュータが、自分のものになるということでマニアの間で大いに人気を博したのである。
 
日本におけるマイコン・キット時代
 
 下表のように、日本でも1976年8月発売のNECのTK-80のヒット(売れても2,000台程度と考えられていたのが、総計6万台も売れた)を契機に、アメリカにさほど遅れることなく、マイコン・キットのブームが起こった。そしてそれがNECのPC8001などのパソコン・ブームへと転化していった。
 関連雑誌としては、日本初のマイコン専門誌『I/O』が1976年に西和彦、星正明らによって創刊されている。創刊後の発行部数は3,000部であった。1977年にはアスキー社によって『ASCII』が創刊されている。

1977年前半に日本で発売されていたマイコン・キット

発売時期 メーカー名 製品名 使用CPU ROM容量 RAM容量 入力装置 表示装置 価格
(円)
画像および関連情報
1976年4月 東芝 TLCS-12A EX-O TLCS-12A 512ワード 128ワード 2進数キー 16個 13個のLED 99,000 ROM容量、RAM容量における1ワード=12ビット
1976年8月 NEC TK-80 μCOM8080A 768バイト 512バイト 16進数キー 16個
ファンクションキー9個
16進表示
8桁LED
88,500 ROM容量、RAM容量はともに1kバイトまで拡張可能
0からFまで16個のキーが4行4列に配置されていた
1975年 インテル(Intel) システム・デザイン・キット
SDK-80
8080A 4kバイト 256バイト     83,000 MCS-80とも呼ばれている
MCS=Micro Computer Set
System Design Kit
1976年 モトローラ(Motorola) MEK6800DII
エバリュエーション・キット
M6800 1kバイト 384バイト 16進数キー 24個 6桁LED
99,700
http://www.st.rim.or.jp/%7Enkomatsu/evakit/MEK6800DI.html
1975年 フェアチャイルド(Fairchild) F-8キット1A F-8 1kバイト 1kバイト    
62,500
 
1976年 ナショナル・セミコンダクター
(National Semiconductor)
SC/MPキット SC/MP 512バイト 256バイト    
40,000
http://userwww.sfsu.edu/~hl/c.SC-MP.html
$499
1975年 モステック(Mostek) F-8サバイバルキット F-8 1kバイト 1kバイト    
58,800
 
1976年 モステクノロジー(Mos Technology) KIM-1 MCS 6502 2kバイト 1kバイト 16進数キー 16個
ファンクションキー7個
6桁LED
119,000
http://www.computer-museum.org/collections/kim_kit.html
http://userwww.sfsu.edu/~hl/c.KIM1.html
$250
1975年 マイクロコンピュータ・アソシエート
(Microcomputer Associates)
JOLTシステム MCS 6502 1kバイト 512バイト    
63,000
http://www.computer-archiv.de/COMP0478.HTM
http://www.fortunecity.com/marina/reach/435/jolt1.jpg
[出典]
 
 
TK-80のヒットに触発されて、1977年以降に日本メーカーが発売したマイコン・キット
発売時期 メーカー名 製品名 使用CPU 価格
(円)
画像および関連情報
1977年3月 富士通 LKit-8 富士通 MB8861N(1MHz)
モトローラ6800互換品 
93,000  
1977年8月 日立 日立トレーニングモジュール
H68TRA
日立 HD46800
(6800互換CPU)
99,000  
1977年9月 パナファコム ラーニングキット
LKit-16
パナファコム MN1610 98,000 http://www.st.rim.or.jp/%7Enkomatsu/evakit/LKit16.html
1978年3月 東芝 TLCS-80A EX-80

東芝 TMP9080AC
(8080互換CPU)

85,000  
1978年12月 シャープ SM-B-80T シャープ LH0080
(2.5MHz,Z80互換CPU)
85,000 RAM 1KB(3KBまで拡張可能)
http://www.retropc.net/ohishi/museum/80t.htm
1978年12月 NEC

μCOM Basic Station
TK-80BS

(TK-80などと組み合わせるための
キーボードやRAM、ROMなどの
周辺機器セット) 
128,000 マイコン・キットとしてマイクロソフト社のBASICを最初に搭載した
1978年5月 シャープ MZ-40K 富士通製の4ビットCPU
「MB8843」1.8MHz
24,800 「マイコン博士」という商品名称で売られていた。技術者向けのトレーニングキットではなく、子供向けの「おもちゃ」としてのキット。CPUは「ワンチップタイプのマイコン」で、「1KBのROMと64ワード×4ビットのRAMを内蔵し、37本のI/Oポート」を備えている。
http://cwaweb.bai.ne.jp/~ohishi/museum/mz40k.htm
MZ-40Kについては下記Webサイトの該当ページも大いに参考になる。
http://www.sharpmz.org/index.html

MB8843に関わる詳細な技術情報が下記WebページのPDFにある。
http://www.sharpmz.org/download/mb8843.pdf

[出典]
 SE編集部編(1989)『僕らのパソコン10年史』翔泳社,p.14
 太田 行生(1983)『パソコン誕生』日本電気文化センター,p.29


[関連参考資料]
山中和正、田丸啓吉(1976)『マイクロコンピュータ入門』日刊工業新聞社,pp.30-31の表3.1「各種のマイクロコンピュータ」

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