例えば極端な議論としては、「最初のコンピュータは、パーソナル・コンピュータであった。」(the first computers were personal computers)[Nelson D.L., Bell, C.G.(1986) “The Evolution of Workstations,” IEEE Circuits and Devices Magazine, July 1986,p.12]という議論がある。[この議論は、「歴史上最初期のコンピュータは、その創造者であるとともに、プログラマーでユーザーでもある個人が自らの特定の問題を解決するためのものであった」(dedicated to solving the specific problems of their creator/programmer/user)という意味で、最初期のコンピュータは、用途の面から見て”personal”なコンピュータであった、というものである。]
また、Personal Workstationという用語が広く用いられるようになるのは、1980年代になってからであると思われるが、ここではそのような歴史的用語としてではなく、歴史を記述し概念的に分析するための技術論的用語として主として用いる。(概念的には、「Personal computing用マシンで企業で業務用に使われるコンピュータ」という概念規定に対応するコンピュータを指すための語として用いる。)

同WEB記事は、IBM650が「パーソナルコンピュータの最も古い原型(the earliest ancestor of the personal computer)」であるとしている。
というのも、IBM650以前のコンピュータ開発においては、新しく開発される機種は先行するコンピュータよりも計算能力が高いことをターゲットに開発されるのが一般的であった。
これに対して、IBM650は「手ごろな価格(affordable)で使いやすい」ということを目標に設計されていたからである。
実際、1950年代後半に利用可能であった他の機種と比べれば、IBM650は、「安い」(約50万ドルという価格)、「小さい」(一つの部屋の中に収まる)、「ユーザーフレンドリーである」(2進法ではなく10進法でプログラムできた)という特徴を持っていた。
こうした意味でIBM650は「コンピュータ史において独自の位置を占めている」と、Miller(2001)は主張している。
なおIBM650の販売台数は、約2,000台であった。
http://www.columbia.edu/acis/history/650.html
IBM Australia(2002) “1953 – IBM’s first computer, the 650, is released”
Weik, Martin H. (1961)「IBM650」in Weik, Martin H. (1961) A third survey of domestic electronic digital computing systems. Ballistic Research Laboratories Report No. 1115, Department of the Army Project No.5B03-06-002, Ordnance Management Structure Code No.5010.11.812, Aberdeen Proving Ground, Maryland, pp.350-389
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同記事では、IBM610は、「(オフィスなどにおいて)一人の人間が利用することを意図したもので、なおかつ、キーボードで操作できる最初のコンピュータであったという意味で、最初のPCであった。」[The IBM 610 was the first personal computer,in the sense that it was the first computer intended for use by one person (e.g. in an office) and controlled from a keyboard]としている。
また冷蔵庫サイズのBendix G-15 (1956)が「最初のPC(first personal computer)であると時々される」とした上で、「Bendix G-15は低価格であることを志向したものであるのに対して、IBM 610はpersonalであることを志向したものである」としている。また同じく「時々、最初のPCと呼ばれている装置」であるSimonに関しては、「機能が限定されたデモンストレーション装置」である、としている。[ Sometimes the refrigerator-size Bendix G-15 (1956) is called the “first personal computer”, but the 610 was running at least two years earlier. In any case the 610 was intended to be personal, whereas the G-15 was intended to be inexpensive.) (Another device sometimes named the first personal computer is Simon — also associated with Columbia University! — but it was a limited-function demonstration device.]
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著者は、大型計算機が主流であった時代にRoberto Olivettiは「真に革命的な何かにトライしよう」と欲し、「より低価格で、普通の人々が使えるコンピュータ、通常の机の上におけるコンピュータ」すなわちデスクトップPCを創ろうと考えた[Roberto Olivetti, then-CEO of the company, wanted to try something truly revolutionary. He wanted Olivetti to make a small computer that was more affordable and could be used by regular people, something that you could place on a regular desk. He wanted to create a personal desktop computer.]としている。
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Nelson,G. E., Hewlett, W.R. (1984) “The Design and Development of a Family of Personal Computers for Engineers and Scientists,” Proceedings of the IEEE Vol.72. No.3, March 1984, pp.259-268NELSONほか(1984,259)は、「ヒューレット・パッカードはエンジニアや科学者のための最初のパーソナル・コンピュータ、HP9100Aを1968年に売り出した」(”In 1968, Hewlett-Packard introduced its first personal computer for engineers and scientists, the HP 9100A.)と書き、HP9100A(1968)をHP最初のPCとしている。NELSONほか(1984,259)によれば、HP9100Aは「マイクロプロセッサを利用していること」という基準を除き、Nilles,Jack M. Carlson,F. R. Jr., Gray,P., Hayes,J. P. and Milton G. Holmen (1980) A Technology Assessment of Personal Computers,Vols I, II,III,Office of Interdisciplinary Programs, University of Southern California, Los Angeles, September 1980が挙げているPCの基準を満たすとしている。(なお下記に紹介するように、Nillesほか(1980)の報告書それ自体は同基準を満たす最初のマシンをAltair8800である、としている。NELSONほか(1984,259)はそうした認定に対して若干の異議を唱えているのである。)そしてそうした最初の製品HP9100A(1968)から、「メモリ容量(memory size)、多用途性(versatility)、価格性能比(performance/price)、使いやすさ(ease of use)」に関する性能向上がHP Series 200に至るまで三世代にわたってなされたとし、その製品進化(product evolution)を分析したのが同論文である。
HP9100A | HP9100Aの右上のスロットに rectangular floppy disksを 入れている図 |
rectangular floppy disks 間違った書き込みを防ぐために カードの隅が切り取られている |
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[図の出典] The Museum of HP Calculators, “HP 9100A/B” |
[図の出典] Osborne(1968)p.8のfig.8 |
[図の出典] Osborne(1968)p.8のfig.9 |
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Wilson, B.(2015) “The man who made ‘the world’s first personal computer’,” BBC News, 6 November 2015Wilson(2015)は、Kenbak-1(1971)を、「世界で最初の商用PC」(the world’s first “commercially available personal computer”)としている。
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CARDIAC、BRANIAC、GENIACなどボード形式の教育目的のコンピュータやオモチャのキット、および、プログラマブルな計算機はPCの定義から外れる[In defining the personal computer,we excluded plastic or cardboard educational and toy kit ‘computers’ (such as CARDIAC, BRANIAC and GENIAC), as well as programmable calculators. ]とした上で、最初のPCは何かを論じている。
現在のPCにおいて一般的なキーボード、および、ディスプレイといったインターフェースに道を開いた重要な技術的発展として Don LancasterのTV Typewriter、および、Lee FelsensteinのVisual Display Moduleを位置づけている。( Don Lancaster’sTV Typewriter and Lee Felsenstein’s Visual Display Module paved the way to the keyboard and screen interface now universal on personal computers. )
そのうえで最初の商用PC製品(the early commercial products)として、 John BlankenbakerのKenbak-l(1971)を位置づけている。 -
斯波逸雄(1995)『ザ・CPUウォーズ:コンピュータシーンを揺るがす大きな小石』光栄、pp.30-31「しかし、「アルテア」は決して最初のマイコンではなかった。1971年にジョン・ブランケンベイカーが製作した「Kenback-1」こそが世界初のパソコンとされている。これはスイッチと簡単な論理回路をつないだだけの簡単なものながら、750ドルもした。2年間でわずか40台程度を売ったに過ぎず、その後は忘れ去られていた。」
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[出典]Kenbak,KENBAK-1 Brochure | Computerworld,p.43 |

[図の出典]Intelが発行した冊子intellec : A new, easy, and inexpensive way to develop microcomputer systems。
同表紙の下部中央の社名Intelの下に、The leader in Microcomputersと記されているのは興味深い。
Intelは、Micro Computer System (MCS)というブランド名で二つの異なる製品を開発している。片方は低コストを強調し4bit CPUを採用した MCS-4(November 1971)であり、もう片方は汎用性(versatility)を強調し4bit CPUを採用したMCS-8(April 1972)である。MCS-8はIntellec 8という名称で記述されてもいる。
Mazor, Stanley (1995) “The History of the Microcomputer — Invention and Evolution” Proceedings of the IEEE, Vol. 83, No. 12 (DECEMBER 1995)は、「それらは二つの極めて異なる市場(two very different markets)をターゲットとしており、片方は低価格の制御装置(controller)市場を、もう一方は汎用パーソナル・コンピュータ(a versatile personal computer , PC)市場をターゲットとしている」と記述している。
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IBMのGeneral Systems Divisionが製作した試作機SCAMP(Special Computer, APL Machine Portable)を、「革命的コンセプト」(revolutionary concept)に基づく世界最初のPCであるとし、IBMはマイクロコンピュータ分野における後発者ではない、と論じている。[“The year 1983 marks the tenth annivaersary of a mileston in the history of computing – the creation of SCAMP, the world’s first personal computer. On this occation it seems fitting to recall SCAMP not only as an IBM project and as a device, but also as a revolutionary concept.” “IBM has been called a latecomer in the micro-business. In reality, Big Blue invented the personal computer 10 years ago – a little before the world was quite ready for it.”(Friedl,1983,p.191)]IBM “IBM Personal Computer:Before the beginning: Ancestors of the IBM Personal Computer”でも、 “revolutionary concept” および “the world’s first personal computer”という本論文の位置づけが紹介されている。
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[出典]PC_magazince, November 1983,p.194 |
- Gonzalez, Rowan(2013) “What was the first PC?” Computer Stories
- BLINKENLIGHTS ARCHAEOLOGICAL INSTITUTE “Pop Quiz: What was the first personal computer?”
- Lasar, M.(2011)
“Who invented the personal computer? ” ars technica, 6/21/2011 - 「「Apple II」や「IBM 5100」といった名機の中で世界最初のPCは何なのか?」Gigazine.net, 2015年01月13日
- 個人的情報処理作業(personal computing)をターゲットとして設計・開発されたマシン
- 家庭(home computer field, home use)での利用を想定として設計・開発されたマシン
- (個人でも取り扱える、あるいは、各個人が1台を専用で使うに支障のない)軽量で小さなマシン[注1]
- (個人でも買える)低価格なマシン
- (普通の人々が)使えるマシン、あるいは、使いやすいマシン
後者の問題は、製品セグメントの構成が歴史的にどのようなものであったのかという問題、すなわち、PCという製品セグメントに属する製品として必要な仕様・スペックの範囲(上限性能および下限性能)に関する歴史的意識のあり方はどうであったのかという問題である。
- 完成品であること(組立作業やハンダ付けなどの工作テクニックが不要なこと)
- 利用可能なソフトウェアがあること(開発プログラミング言語ソフトウェア、あるいは、アプリケーションソフトウェアがあること)
- 分かりやすい使用説明書・マニュアルがあること
さらにまた現在のPCがネットワーク対応でGUI採用のマシンであることを重視し、そうしたマシンの起源としてXerox社のAlto(1983)を最初のPCとする見解もある。
ここではそれに加えて汎用的マシンとしての実用性を持ち社会的認知に大きな貢献をしたIBMのIBM Personal Computer(1981)を最初のPCとする見解を取り上げる。

Popular Electronics誌の1975年1月号の表紙 - World’s First Minicomputer kit to Rival Commercial Models…”(市販のミニコンピュータと肩を並べる、世界最初のミニコンピュータ・キット)というキャプションを付けられたAltair8800
Nillesほか(1980)は、PCの要件の一つとして「小型」性を挙げながらも、それ以外にどのような要因が必要なのかを論じた最初期の著作である。
Nillesほか(1980)の議論は、下記で詳しく紹介したが、基本的にはPCの要件を適切に論じている。
Nillesほか(1980)は、個人利用という点では「スタンドアローン利用」、「インタラクティブなマシンであること」が、各個々人の個人利用を可能にする価格帯であることの必要性からは「低価格であること」が、利用が特定の専門家に限定されないという点では「汎用的であること」、「できあいのプログラム・ソフトウェアを利用できること」(Nillesほか(1980)は明示的に記載していないが、「コンピュータ技術やコンピュータ操作のための訓練を必要としないこと」ということを言い換えるとこのように表記できる)、「インタラクティブであること」などが必要となることを先駆的に論じている。
ただし「マイクロプロセッサを利用している」ことという条件は、「低価格」性という条件を満たすためのその当時の技術的条件として派生的な位置づけにすべきであると思われる。
- 小型であること[small]
- 汎用的であること[general purpose computer]
- 先進的なマイクロ・エレクトロニクス技術を利用していること[using advanced microelectronics technology]
- 個人利用を想定して設計されていること[is designed to be conveniently operated by a single individual]
- コンピュータ技術やコンピュータ操作のための訓練を必要としないこと[ need not have extensive(or even any) prior trainingin computer technology or operation]
- スタンドアローンで利用するマシンであること[stand-alone]
- 汎用的コンピュータシステムであること[general purpose computer system]
- マイクロプロセッサを利用していること[containing one or more microprocessors]
- 個人あるいは小グループ(2人~5人)によって購入されるか、操作されるマシンであること[is purchased and/or operated by an individual or small (say, 2 to 5) group of individuals]
- インタラクティブなマシンであること[It requires interaction at a conversational level between it and its operators at least part of the time it is functioning(i.e., it is not used solely for process control or similar,non-interactive utility functions)]
- 個人がそのマシンの利用で個人的に得られる便益に応じた購入価格であること[ Its cost is such that the individual owner can justify its purchase on the basis of personally received benefits, financial or otherwise.]
- 個人的所有者はコンピュータの専門家である必要はない[The individual owner need not be a computer professional]
- コンピュータの利用目的は、レクリエーション、教育、ビジネスのためだけである必要はない[nor need the computer be used solely for recreational, eduational or business purposes]
そしてそうした立場から、LINC(1962)について、「1962年、DECはMITのリンカン研突所と共同で、ワード長が12ビットのLINCというコンピュータを開発した。これは実験室の各種コントローラや、研究者が1人で使うコンピュータ(computer for a single researcher)という用途を想定していた。その意味ではLINCはパーソナル・コンピュータだったが、4万3,000ドルという価格では個人用に購入するのは無理だった。」(原著 p.77, 邦訳 pp.84-85)として、技術的要件は満たしているが、その他の要件は満たしてはいないとしている。
著者達は、「「パーソナル」という言葉が意味するものを技術的にも社会的にも理解していた」集団としてhobbyistを位置づけるとともに、そのhobbyistのニーズに応えた最初のPCとしてAltair8800を挙げている。すなわち、Altair 8800が「パーソナル・コンピュータ時代の幕開けを告げた」(原著 p.94, 邦訳 p.103)と書いている。
なお、TRS-80, PET, Apple II は「Personal Computer:The Second Wave」(原著 p.96, 邦訳 p.106)の中に位置付けている。
p.83で、8008ではなく8080が「最初のPCの基礎となった」(the basis of the first personal computer)としている。
p.90では、Altairによってmicrocomputer revolutionが始まった、としている
p.95では、IBM PC(1981)の登場でmicrocomputerがPCと呼ばれるようになった、としている。
なおその当時、CPUの命令処理能力に関してIntel8008は0.06MIPSと、その後継CPUのIntel8008の0.64MIPSの1/10以下と極めて低いことが問題とされていた。
ただし「一般市場向けに販売された組立済みの最初のPCはApple Iである」(The first PC that was fully assembled and offered for sale on the general market was Apple I.) としている。
- Altair8800は低価格ではあったが、図1のキャプションにあるように、完成品型ではなく組立作業が必要なマイコン・キットとして最初に発表された。
- テレタイプやキーボードなどの入力装置およびフロッピーディスク・ドライブ(以下、FDDと略)などの記憶装置を別途調達する必要があったが、それらはAltair8800本体価格の3 – 4倍とかなり高価格であった。
- 発売初期にはそのマシン上で動作するプログラミング言語ソフトがなかった。
なお富田倫生(1994)『パソコン創世記』阪急コミュニケーションズも、巻末の年表の2頁目で、Altair8800を「大衆的なパーソナルコンピューター運動に火をつけ」たマシンとして記している。(富田倫生(1994)『パソコン創世記』では、何が最初のPCであるのかは明示的には記載されてはいないが、「後藤はICテスターの開発を通じて、PDP-8を自分自身で独占することのできる「パーソナルコンピューター」として徹底的にしゃぶりつくしていった。」(p.32)というような表現からは、personal computing用マシンとして「パーソナルコンピューター」を規定しているように思われる。)
「personal computingの発明に関してよく見られる二つの見解がある。/第一の見解は、PCを、Stephen WozniakとSteven Jobsという、computer hobbyistからentrepreneurになった二人の若者に根差すと、するものである。」(p.1)(“There are, generally speaking, two popular accounts of the invention of personal computing. The first roots the PC in the exploits of a pair of young computer hobbyists–turned–entrepreneurs,Stephen Wozniak and Steven Jobs.”)
「第二の見解は、1970年代初頭の伝説的なパロアルト研究所がpersonal computingの生誕の地である、とするものである。・・・今日のデスクトップ・コンピュータおよびポータブル・コンピュータの先駆けとなる、Altoと呼ばれるコンピュータが[同研究所に]集められた有能な人材たちによって、生み出された。」(p.1)(”The second account locates the birthplace of personal computing at
Xerox’s fabled Palo Alto Research Center in the early 1970s. There, the
giant copier company assembled a group of the nation’s best computer
scientists and gave them enough freedom to conceive of information
tools for the office of the future. Out of that remarkable collection of
talent came a computer called the Alto, the forerunner of today’s
desktops and portables. “)
しかし、ネットワーク、レーザープリンター、マウス、GUIなどその設計思想の斬新性で現代的PCの祖形ともいえるマシンであることから、実用化された最初のPCと強く主張する論者が下記のように少なくない。
すなわち同書は、「階層的なネットワークと、その端末におけるパーソナル・コンピューティングのスタイルができあがってゆく過程」(p.12)を描くことを意図したものであり、Altoを中心とするアルト・システムの持つインターネット技術史上の重要性を、「時分割処理システムの発展的解消」としての「小型コンピュータのネットワークシステム」という点に求めている。すなわち、Altoによって、LAN「端末のコンピュータ利用スタイル(パーソナル・コンピューティング)の誕生」(p.13)がなったとしている。
言い換えれば同書は、以下の引用文に示されているように、Personal Computingの意義をLAN端末としての個人的利用に位置づけており、PCの基本的要件としてネット利用可能性がある、とする立場に立っている。
しかし「業務」用マシン(Workstation)であるという点に着目すれば、下記のようにAltoはPersonal computerではなく、Personal Workstationとして位置づけるべきであろう。
Bell, G. (1988) “Toward a History of (Personal) Workstations,” in Goldberg, A.(ed.) A History of Personal Workstations, Addison-Wesley Professional, pp.4-36 [ACMプレス編(村井純・浜田俊夫訳,1990)『ワークステーション原典』アスキー, pp.6-52]
ただしBell自身は、PCの基本的要件として1のみを想定し、「パーソナル・ワークステーションは、(50ポンド[22.8kg]以上と)相対的に重く、かつ高価なパーソナル・コンピュータである」[A personal workstation is a relatively large (greater than 50 pounds) and expensive ($10,000 to over $100,000 in 1985) personal computer, with the appropriate transducers, used by a professional to carry out generic (e.g., calculation, mail, and communication) and profession-related activities such as music composition, financial modeling, or computer-aided design of integrated circuits.]というように、Peronal WorkstationはPersonal Computerの一種であると規定している。
しかしその一方でBellは、p.8のFIGURE 1 Computer system prices at introduction and Classes versus timeにおいて、Personal Workstationを、Altair, AppleII, TRS-80, Pet2001, Commodore 64などのHome Computersや、IBM PCsとは異なる製品カテゴリーとして、Workstationを位置づけている。Workstationに属するマシンとしては、StarやSUNなどのマシンをあげている。
しかもBell(1988)は、p.8のFIGURE 1においてWorkstation製品セグメントをminicomputer製品セグメントの派生的セグメントとして位置づけている。
さらにまたBellは、Personal Computing用マシンをPCと定義する立場に立ちながらも、Home Computersや、IBM PCsといった製品カテゴリーを、Personal Workstationとは異なる製品カテゴリーとするとともに、Home Computersや、IBM PCsといった製品群の歴史的ルーツをAlto(1973)には求めていない。
杉田忠靖(1990)「パーソナルコンピュータとワークステーション」田丸啓吉・山中和正編『パソコン・マイコン百科』朝倉書店、pp.143-153は、「今日のワークステーションが生まれるに至る背景には、コンピュータのTSS端末の流れと、パーソナルコンピュータの発展の流れに遡る必要がある。」(p.148)として、「TSS端末と分散処理用コンピュータが一体化」(p.149)したものとしてのワークステーションと、「パーソナルコンピュータの上位イメージ」(p.149)としてのワークステーションという二つの流れで理解すべきだ、としている。
「8008を用いたコンピュータキット製品の最初の波、および、第一世代のパーソナルコンピュータシステムの上げ潮の後の1975年には、同じ600ドルでもっと数多くの機能[を持った製品]を買うことができるようになった。1975年に、我々はMITSのAltairの登場を見たのである。」(p.6)(But now, in 1975 after the first wave of 8008 computer kit products and the rising tide of the “first generation” personal computer systems, that same $600 can buy a lot more function. In 1975 we saw the introduction of the MITS ALTAIR)
なお雑誌Byteの第4号(1975年12月号)のp.112のThe Byte Questionnaireでは、”What applications do you have in mind for your own personal computer system?”, “If you own or use a personal computer system, what is its CPU chip or main frame computer design?”というように、編集者の関心の対象がpersonal computer systemにあることが強調されている。
雑誌Byteの第2号(1975年10月号)のp.96のThe Byte Questionnaireでは”What is your primary interest In personal computing?”というように、personal computer systemではなく、personal computingという用語が使用されている。
Faggin(1984) “Interview : Federico Faggin,” Computerworld, July 30 1984,p.6の見解
Fagginは上記引用でフランスの会社RPEとしているが、これはR2E (Réalisation d’Études Électroniques)の間違いと思われるので、訳文ではR2Eとした。
Micral Nに関する説明
Micral N(1973)は、完成品型製品であり、アセンブラーをROMで提供しており、テレタイプでプログラム入力できた。そうした意味でアセンブリ言語という低級言語ではあるが、プログラム動作ができた低価格のコンピュータである。
なおR2E社は、Micral N(1973)に引き続き、1974年には、Intel 8008の動作周波数をMicral Nの2倍の1MHzにしたMicral G、および、Intel 8080を採用したMicral Sを出している。
なおRéalisation d’Études Électroniques (1974b) Micral S Microcomputer Handbook, p.18によれば、Micral Sは、Micral N用に書かれたプログラムを動作させることができた。
[https://ia601605.us.archive.org/15/items/bitsavers_r2eMICRALSokAug74_2516150/MICRAL_S_Microcomputer_Handbook_Aug74.pdf]
![]() [出典]Byte,Issue 4, December 1975, p.90 |
![]() [出典]IBM特許 Portable personal computer US D243460 S(出願日1975年8月7日、公開日1977年2月22日) |
第2期 1965-1980 IBM System 360ファミリーの到来(the arrival of the IBM System/360 computer family): 「IBM System 360 標準の時代」(“era of the IBM System/360 standard”)
第3期 1980-1995 Personal Computerの出現(the emergence of the personal computer):「IBM PC 標準の時代」(“era of the IBM PC standard”)
第4期 1995-2010 インターネットの商用的発展(the commercial development of the Internet):「複数標準の時代」(“era of the multiple standards”)
Campbell-Kellyほか(2015)は、第2期 1965-1980に、minicomputer, small business computer, microcomputerが出現した、とするとともに、microcomputerとは別にpersonal computerを位置づけている。