2005年度前期 経営技術論試験問題は下記の通りです。なお、試験問題の後に簡単な解説を暫定的にアップしてあります。

2005年度前期 経営技術論試験問題
 
下記の3つの問いに関して、別紙の解答用紙に解答を書きなさい。
なお採点に際しては、正しいことがきちんと書いてあっても、間違ったことや関係がないことが書いてあった場合にはその分量に応じて減点します。間違いや関係ないことの方が多い場合には全体として点数がマイナスになる場合もありえますので、注意して下さい。
 
問1 技術革新のプロセスは様々な視点から論じることができますが、問1では必要
(needs)との関連で技術革新をどう捉えるのかという議論に関する下記の二つの問いに対する答えを書いてください。
(1)必要(needs)が発明を生み出す「必要は発明の母である」という主張を仮に自分が擁護しなければならない立場に立たされたとすると、どのような事例を基にそうした主張を展開しますか?そうした主張に関してデータに基づきながら説得力ある議論を展開してみてください。
 
(2)必要(needs)が発明を生み出す「必要は発明の母である」という主張に対して、仮に自分が反論しなければならない立場に立たされたとすると、どのような事例を基にそうした主張を展開しますか?そうした主張に関してデータに基づきながら説得力ある議論を展開してみてください。
 
 
 
問2 人々の生活や社会のあり方を大きく変えた技術革新としては、近代の産業革命、および、20世紀後半に始まり現在なお進行中のIT革命などが典型的な事例として挙げられることが多い。
 「人々の生活や社会のあり方を大きく変えた技術革新の歴史的展開のあり方にはどのような構造があるのか?、またその構造的特徴は何か?」ということに関して、「近代の産業革命」を例に取るか、「現代のIT革命」を例に取るか、あるいは、「近代の産業革命と現代のIT革命」の両方を例に取るかして、事例に基づきながらわかりやすく説明しなさい。
なお解答に際しては、自分の言葉でわかりやすく要点をまとめて説明してください。授業ノートの丸写しの場合にはどんなに正確で分量が多くても、評価は低くなります。
 
 
 
問3 自動車技術の発展により19世紀になると実用的な自動車が製造できるようになった。19世紀末から20世紀初頭にかけての時期には図1〜図3に示したように、蒸気自動車、電気自動車、ガソリン自動車という3種類の自動車技術が並存していた。1900年にアメリカのニューヨーク、シカゴ、ボストンという3大都市で2,370台の自動車があったが、その内訳は蒸気自動車1,170台、電気自動車800台、ガソリン自動車400台というものであった。その当時は、蒸気自動車や電気自動車が町の中、倉庫、農場などで活躍していたのである。
 
 最も最初に実用化されたのは蒸気自動車である。19世紀前半には、イギリスのロンドン=バーミンガム間で蒸気自動車をバスとして利用した定期便が運行されていた。
 アメリカの蒸気自動車で代表的なのが1899年のスタンレー兄弟会社の蒸気自動車である。鋼管フレームに石油バーナーで加熱する小型ボイラーを座席の下に納めたもので、針金スポーク車輪をもつ。チェーンと差動歯車(カーブを切る時、外側車輪は回転数を多く、反対に内側車輪は少なくできる歯車機構)で後輪を駆動させる二人乗りで、アメリカにおける最初の実用的自動車であった。スタンレーの蒸気自動車は、1906年の試作車では時速204Kmの世界記録を出している。
図1蒸気自動車[水蒸気の力で動く蒸気機関(steam engine)を利用した自動車]
図1蒸気自動車[水蒸気の力で動く蒸気機関(steam engine)を利用した自動車]
 
 
 また電気自動車は図2の広告にあるように、その当時で1回の充電で40マイル(約64km)を走ることができ、信頼性・単純性・清潔性を売り物にして一定の顧客の支持を得ていた。
図2 電気自動車[電気の力で動く電動モーターを利用した自動車]
図2 電気自動車[電気の力で動く電動モーターを利用した自動車]
 
 
 しかし結局のところ、ガソリン自動車が蒸気自動車、電気自動車との競争に打ち勝ち、市場を支配することになった。
図3 ガソリン自動車[ガソリンの爆発的燃焼の力でエンジンを動かす自動車]
図3 ガソリン自動車[ガソリンの爆発的燃焼の力でエンジンを動かす自動車]


 自動車という製品のこうした技術革新に関して、授業内容に対応した形で考察しなさい。

<注> 問3に関する評価のポイントは、「類似のケースに関する授業内容をきちんと理解できているか?またそうした理解に基づいて別のケースをうまく論じる応用力があるのかどうか?」ということです。

試験問題に関する暫定的解説

  1. 問1に関しては、(1)の「必要(needs)が発明を生み出す」ということの事例として、近代初期における「より安価な燃料が欲しい」というneedsに対して石炭が「発明」された、というような解答はあまり適切ではありません。
     というのは、そうした事例は歴史的事実とは異なる間違った考えだからです。(石炭は古くは紀元前1000年頃に中国で陶器製造用に使われたり、紀元前400年頃にギリシャの鍛冶屋で使われたりしたと言われています。また日本でも「燃える石」としての石炭については,日本書紀の中でA.D.668年7月に「越の国から燃える土と燃える水を天智天皇に差し上げる」と記されていると言われています。)
     このように、石炭が「燃える石」として近代初頭のneedsの発生以前から知られていたことは、授業で論じています。

    問1のような形式の問題では、賛成論にも反対論にもどちらも十分に根拠があると思われるような解答を書かないと、完全な正解にはなりません。(1)で挙げた見解を(2)ですぐに自分で反論しているような答案は(1)が「説得力ある議論」ではないことになってしまいます。
     したがって「必要(needs)が発明を生み出す」例としては、石炭ではなくて何か別のものを例証としてあげる必要があります。
     
  2. 問2では、「技術革新の歴史的展開のあり方に関する構造(あるいは構造的特徴)を述べよ」という問題ですので、近代の技術革新に見られるように、「ある技術的発明(ex.蒸気機関の発明や石炭のコークス化技術の発明)や技術革新(ex.石炭の利用の社会的普及)がまた別の技術的発明や技術革新を生み出すことを絶えず繰り返している」「技術革新が次の技術革新を連鎖的に生み出す」といった技術のネットワーク的発展構造とか、螺旋的発展構造をわかりやすく説明することがポイントです。
     すなわち問2では「石炭の社会的利用の拡大」→「新たな排水技術や輸送技術へのニーズ増大」→「蒸気機関という新しい技術的発明を利用した揚水装置や輸送手段(蒸気機関車による蒸気鉄道、蒸気船による海上輸送)によるそうしたニーズへの対応」→「鉄に対するニーズのさらなる増大」→コークスを利用した高炉製鉄法による「石炭の社会的利用のさらなる拡大」といったことを技術のネットワーク的発展構造(あるいは、技術の螺旋的発展構造)の事例として説明するような答案に対して高い評価が与えられることになります。

    あるいは、「新たな技術革新の社会的形成には、needsとseedsという二つの要因(「発明の母」としてのsocial needsと、「発明の父」としてのtechnical seeds)が関わる」ということや、「技術革新の結果として生み出されたものが次の技術革新のためのseedsとなるというような技術革新の連鎖的構造がある」といったようなことを説明することでも構いません。


  3. 問3における19世紀末から20世紀初頭における「電気自動車」「蒸気自動車」「ガソリン自動車」という三つの自動車技術の間の激しい競争に関しては、下記のようないくつかの視点に基づいて議論した方に対して高い評価を与えています。
    1. 「needsに対して、needsを満たす技術的解決法は一般には複数存在する」という事例としての解釈
    2. 「ある特定の時点で優れた技術的方式であって、初期の市場で優勢であったとしても、市場の成熟期において市場を支配するものになるとは限らない」という事例としての解釈
        蒸気自動車は1906年の試作車で時速204Kmの世界記録を出していることに示されているようにその当時は優れた技術的方式であった。またアメリカのニューヨーク、シカゴ、ボストンという3大都市では1900年の時点では蒸気自動車1,170台、電気自動車800台、ガソリン自動車400台というデータに示されているように、初期自動車市場では蒸気自動車がもっとも優勢なものであった。
         こうした事例としては、最初はソニーのベータ方式のVTRの方がビクターのVHS方式よりも画質が優れており、初期VTR市場でビクターよりもソニーのVTRの方が優勢であったが、やがてビクターの方が逆転勝利を収めたことなどがある。
    3. 「ある時点で決定的敗北を喫した技術であっても、関連技術の発展とともにまた再び復活することがある」という事例としての解釈
      • 電気自動車という技術的方式は20世紀初頭に決定的敗北を喫したが、環境問題の深刻化とともに、ガソリン自動車に取って代わる技術的方式として電気自動車が注目を浴びるようになっている。
         たとえば、充電池技術の発達とともに、充電池によって走行する電気自動車が21世紀の自動車技術として最近になり再び注目を集めています。 http://japan.discovery.com/we/we003/によると、慶應大学の「Eliica」という電気自動車は、リチウムイオン電池を利用し「最高時速370km。加速度0.68G」「時速160キロメートルまで加速するのにかかる時間は約7秒で最高級スポーツカーの9.2秒をしのぐ」「同じサイズのガソリン車に比べて使うエネルギー消費量はガソリン車の4分の1」「8つの車輪一つ一つにモーターを搭載することで、800馬力を実現。タイヤの接地面が多いぶん、安定性も高い。」「フル充電には一回5時間かかるが、300kmの走行距離を持っている」という高い性能を誇っています。

        <Eliicaの写真が数多くあるサイト>