製品の製造コストや品質に主として関わるイノベーション
2.生産の主要な規定要因の一つとしての技術
1)「生産」の同時代的生成のあり方や構造を規定している主要要因の一つとしての技術
ex.1 コンピュータやセンサーを用いた産業用ロボット技術・自動搬送技術・工作機械を用いた「ロボットセル」による自動生産システム
ex.2 コンピュータやセンサーを用いた制御システム装置によるロボット技術や自動搬送技術、無線通信技術などに基づく「無人生産」
2)「生産」のあり方や構造の歴史的変化をもたらす主要要因の一つとしての技術
3.Technologyに対するManagement(MOT,技術経営論,経営技術論)への社会的関心の高まり
a.MOTに対する社会的関心の高まりの背景 ---- 企業の競争力を規定する重要な要因の一つとしての技術力、技術管理力(技術マネジメント力)
技術プロセスのマネジメントが重要であることは企業競争力の重要な構成要素が技術競争力である製造業においては従来から認識されてきた。製品の技術的性能に基づく製品差別化戦略を志向するにしろ、より低コストでなるべく品質の高い製品をつくりだす製造技術に基づくコストリーダーシップ戦略を志向するにせよ、企業の技術力が製品競争力を規定する重要な要因であることは疑い得ない。
しかし絶えざる技術革新が激しく進む現代では、製造業に限らず様々な分野の企業において、「個々の技術革新への素早い適確な対応」「情報システムなどのように刻々と変化する技術システムに対して素早く適確に対応する能力」「情報セキュリティシステムの構築などに見られるように、安全性の確保と効率性の追求というともすれば背反しがちな課題を両立させながら、新しい技術システムを合理的に管理する能力」の差異が企業競争力を左右するようになってきている。
ユビキタス社会といった用語に示されているように、特にIT分野におけるすさまじい技術革新とその社会的利用の急速な進展は、情報通信技術分野における技術発展の将来的発展を見越した合理的対応や、情報処理システムや情報通信システムに対する合理的管理能力の育成が重要になってきている。
こうした状況の中で、「経営感覚を持った技術者」および「技術感覚を持った経営者」の育成が社会的に強く求められるようになってきている。
この点に関連してポーターは「活動の集合体である会社は、また、技術の集合体でもある。技術は会社のあらゆる活動にインパクトを与えることによって、(会社の)競争力に影響を与える」[Porter,M..E.(邦訳1985)『競争優位の戦略』ダイヤモンド社,p.209]とか、「技術はあらゆる価値活動に用いられ、部門活動の連結器の役目を果たしているので、コストと差別化の両方に強力な影響を及ぼすことができる」[Porter,M..E.(邦訳1985)『競争優位の戦略』ダイヤモンド社,p.213]のであり、「技術開発は、すべての業界において、競争優位にとって重要である。一部の業界では中心的役割を演じる。たとえば鉄鋼業界では、ある会社の生産技術が、その競争優位の唯一最大の要因である。」[Porter,M..E.(邦訳1985)『競争優位の戦略』ダイヤモンド社,p.55]などと述べている。
b.MOTの相対的区分
1.マネジメントの対象による区分---- 「技術者に関わるマネジメント」としてのMOT vs 「 技術そのものに関わるマネジメント」としてのMOT
技術プロセスをマネジメントするには、「技術プロセスそのものを直接的にマネジメントしようとするやり方」と、「技術プロセスに関わっている技術者をマネジメントすることで技術プロセスを間接的にマネジメントしようとするやり方」の2種類がある。
2.マネジメントの仕方による区分---- 「技術<外>的指標によるマネジメント」としてのMOT vs 「技術<内>的指標によるマネジメント」としてのMOT
「個々の技術の個別的特性や質的=内的特性などに対する直接的把握とは無関係に普遍的視点から技術者や技術をマネジメントしようとするやり方」と「個々の技術の個別的特性・質的=内的特性や歴史的発展プロセスに対する技術論的かつ技術史的理解に基づいて技術者や技術のマネジメントをしようとするやり方」の2種類がある。
3.製品差別化による「企業競争力の向上」と「成長基盤の構築」 ----- 製品イノベーションに対する管理の重要性
フィルム利用のアナログカメラから半導体メモリ利用のデジタルカメラへの急激な移行を成し遂げた「カメラ市場」、カセットテープ利用のウォークマンからCD、そして半導体メモリやHDD利用のiPodなどへと急速に移行しつつある「携帯オーディオ市場」などに典型的に見られるように、製品や生産技術に関わるイノベーションの進行が激しい現代においては、技術革新に対してうまく対応できるかどうかが企業の長期的な存続・成長に大きな影響を与えます。
また製品開発競争が盛んな現代においては、技術開発力や製品製造力などの生産技術力が製品の製造コストや他社との製品差別化を規定する主要な要因として企業の競争力に強く関係するとともに、新しい技術革新への対応の巧拙が企業の成長・衰退を大きく左右します。
コンピュータ技術や通信技術(ADSL技術・光ファイバーケーブル技術など)の発展と社会的普及を基礎とするIT革命に典型的に見ることができるように、主流となる生産技術が歴史的に変動するとともに、企業活動や企業間競争のあり方は大きく変動します。
そのため現代では、生産技術や技術革新に対する深い理解を持った企業人が強く求められています。本講義では,そうした観点から企業の持続的成長および技術的競争力確保のために生産技術をどのように戦略的にマネジメントすべきかを取り扱います。
本授業では、企業の持続的=長期的成長という視点から、製品や生産技術の歴史的変動への戦略的対応について具体的事例をもとに理論的に考察します。すなわち、製品生産という視点から企業活動のあり方を多面的に考察し、「どのような製品をどのように生産すべきなのか」という問題を、イノベーション論や生産システム論との関係で論じます。
最初に、イノベーションの構造をニーズとシーズという視点から取り扱い、製品と生産技術の発展構造に関して歴史的事例をもとに議論します。次に、そうした歴史的事例を基礎としながら、製品や生産技術の歴史的展開に関する経路依存性論、アッターバックのドミナント・デザイン論、クリステンセンのバリュー・ネットワーク論、モジュラー
vs インテグラルを基本的分類軸とする藤本隆宏のビジネス・アーキテクチャ論などの理論的分析の具体的意義を議論します。
4.Innovation(技術革新)の歴史的展開構造の解明 --- needsとseedsの相互連関、ドミナント・デザイン論
技術開発の方向性の決定や、利用(採用)する技術の選択にあたっては、「技術発展とはなにか?」、「技術発展はどのような形で生じるのか?」、「技術革新はどのような形で進行するものなのか?」といったことの把握が技術管理のための基礎として重要である。
5.技術革新(イノベーション)という視点からの企業経営
多様な技術的選択肢、および、市場の将来的変化や技術の将来的発展による潜在的な技術的選択肢を対象として、現在および将来の「市場」環境・「技術」環境などとの連関、および、「時間」的制約・「コスト」的制約・「リソース」制約(投入可能な経営資源や利用可能な技術開発能力)の諸要因を考慮に入れながら、どのような戦略的な技術選択を行うべきなのか、どのようなやり方でどのような方向に向けた技術開発を戦略的に行うべきなのかを過去の事例研究に基づきながら論じる。
6.「技術」という用語の持つ多様性、および、「技術」を論じるための視点の多様性
a.ニーズ(needs) vs シーズ(seeds) →技術の相互連関(技術発展のネットワーク構造)
「発明の母」であるニーズ(必要)と「発明の父」であるシーズ(技術的な種・先行する技術開発)
ニーズにも、社会的ニーズ(ある製品やサービスに対するマーケット・ニーズ)と技術的ニーズ(ある製品やサービスの開発に必要な要素的技術に対するニーズ)の二種類を区別する必要がある
b.多様な技術的方式の相互競争と棲み分け
c.製品技術 vs 製造技術
i>製品技術に関わるInnovationとしてのProduct Innovation
製品そのものに関わる技術(製品の基本的な技術的性能や独自性に関わる技術)についてのイノベーション
ii>製造技術に関わるInnovationとしてのProcess Innovation
製品の製造に関わる技術(製品の製造に関わる技術、製品コストや品質・信頼性に関わる技術)に関するイノベーション
Product Innovation と Process Innovationの関連と差異に注意が必要
productに関して、組立型製品(ex.マイクロプロセッサー+マザーボード+メモリ+HDD+DVD+PCケース→パソコン)、加工型製品(工作機械などによる加工によって生産される製品)、素材型製品(鉄、ガラスなど)といったように、製品特性の違いに応じてProduct
Innovation/ Process Innovationのあり方は異なる
d.要素的技術 vs 要素的技術の統合(技術統合)
e.科学 vs 技術 --- 科学と技術の関連と差異、両者の関係の歴史的変化、企業におけるR&Dの体制
明治大学経営学部 佐野研究室
Last update:
May 9, 2009