技術史基礎論 --- 技術の歴史的発展段階論のための理論的基礎
技術規定の基礎としての、人間労働に関する理論的分析

1. 人間労働に関する抽象的規定
対象に対する、人間の目的意識的対象変革的働きかけとしての生産的労働

図1 抽象的人間労働の抽象的構造
人 間 → → 対 象
労 働

2.「原初」的人間労働 ---- 対象への「直接」的働きかけ
 人間労働の原初的段階は、人間が自分の身体以外に何らのモノも用いずに自然的事物など対象と直接的に対峙していた段階である。自分の肉体自身を媒介物(労働の手段)として対象に働きかける段階、すなわち、自分の身体それ自身を「道具」として対象に働きかける段階である。
 こうした原初的労働は、現代においても完全に消滅したわけではない。機械の工具を取り替えるために必要な工具をそれの保管場所からが自分の手で持ってくる場合、すなわち、モノを手で持って目的の場所まで移動させる場合などがそうであるように、現代でも部分的労働過程として人間は自分の身体を「道具」として労働をおこなっている。
 歴史的に最初の人類は自分の素手や足など自分自身の肉体だけを使用して対象への働きかけをおこなっていた、と思われる。すなわち現在の多くの動物がそうであると同じように、人類も食物や飲料水を得て生きのびるために、最初は自分の肉体以外の何物も使っていなかった、と考えられる。

図2 原初的人間労働の抽象的構造
人 間 身 体 対 象
労 働


3.「本来」的人間労働 ---- 対象への「間接」的働きかけ
(1)技術論的な人間規定=「道具を使って道具を作る動物」
技術論的視点から見て人類が他の動物と区別されるのは、対象を自己の目的にかなうように変化させるのに、道具などの媒介物を用いることにある。
 「道具を使う動物」(ラッコ、エジプトハゲワシ、ダーウィンフィンチなど)は、人類以外にもいる。しかも、哺乳類に限らずかなり数多くいる。
 もっともチンパンジーなど少数ながら「道具を作る動物」は人類以外にもいる。チンパンジーはこうした技術論的意味においても確かに類人猿である。「道具を作る」ことができるということは高度な知能の存在を示している。そしてまた、実際に道具を作る過程を通して高度な知能のさらなる発達が促される。
 ただし、「道具を使って道具を作る動物」は人類以外にはいないと考えられる。

(2)技術発展に関する一般的理解
1>技術発展の歴史的第1段階 --- 原始時代における道具の成立・普及
 人類は対象への働きかけに、自分の身体とともに弓矢や棍棒など道具を用いるようになった。

図3 道具段階の人間労働の抽象的構造
人 間 身体 + 道具 対 象
 労    働

2>技術発展の歴史的第2段階 --- 産業革命期における機械の成立・普及
 次に人類は対象への働きかけに、自分の身体とともに機械を用いるようになった。

図4 機械段階の人間労働の抽象的構造
人 間 身体 + 機械 対 象
 労    働


(3)「技術発展の一般的理解」図式における基本的問題