経営技術論2014.05.09

[前回の授業内容]経営技術論2014.05.02
[次回の授業内容]経営技術論2014.05.16

[授業配付資料]
— Productに関するTechnology-Function-Performance論、および、Cost-Benefit論からの考察 —-
3.「原発無人ロボ、東電「いらぬ」 JCO事故後、30億円で開発→結局廃棄 」『朝日新聞』2011年05月14日夕刊
4.「業界慢心、ロボ頓挫 「原発で事故起きる?」 原子力災害用の遠隔操作ロボット 」『朝日新聞』2011年05月14日夕刊
5.「原発特殊任務、軍事ロボ出番 米ハイテク3社、支援へ動き 福島原発事故 」『朝日新聞』2011年04月01日朝刊
 
[授業内容]
1.一般的なニーズ概念の多義性に関するコトラー的理解と経営技術論的理解

コトラー的理解
[1)needs, 2)wants, 3)demand]
   VS
経営技術論的理解
[1a)客観的存在としてのnecessity/usefulnessそのもの,1b)necessity/usefulnessに関する主観的認識,
 2)wants, 3)demand]

 

2.一般的なニーズ概念の多義性に関する経営技術論的理解の「必要性/有用性」を示す事例としての「原発作業用ロボット」

放射線量が高く人間が作業するには適しない場所で動作可能な「原発作業用ロボット」は原発事故が起きた場合には実際に「必要」となったし、そうしたロボットがあれば二次災害防止や事故処理のためにも「有用」であった。
下記の参考資料などに示されているように、「原発作業用ロボット」のそうしたnecessityおよびusefulnessに関して、日本の官僚は理解・認識し、Product開発・製造のための予算措置を取っていた。「原発作業用ロボット」のnecessityおよびusefulnessに関する主観的認識に対応したTechnologyやProductの先行的開発は日本で実際になされていたのである。
しかしそうしたProductに対する電力会社側のwantsやdemandは存在しなかった。

原発で事故が起こった場合には、放射線量が高い場所で作業できるロボットが有用である。万一の原発事故に対応可能なロボットの社会的必要性は、1979年3月のスリーマイル島原発事故、1986年4月のチェルノブイリ原発事故などもあり、認識されていた。
実際に日本でも原発事故対応ロボットの開発は1980年代からおこなわれていた。1983-1991年に実施された「極限作業ロボット開発計画」では、通産省を中心に東芝、三菱重工業、日立製作所など8社が参加し、約70億円の予算で1台のロボットを開発・製造している。また1999年に茨城県東海村で起きたJCO臨界事故の発生後には、日本の通産省が原発事故への対応を想定したロボットの開発費として30億円の補正予算を計上し、日立製作所、三菱重工業、東芝など4社が遠隔操作ロボットを2001年に計6台製造したが、電力会社は「原発では事故は起きないのでロボットはいらない」としてそれらを欲しなかったため、2006年3月には廃棄処分にされている。
週刊アエラの取材に対して、日本ロボット学会の川村貞夫会長(立命館大教授)は「技術的には、今回のような(福島第一原発)事故現場で稼働するロボットを国内で作ることは可能でしょう。問題は、電力会社などが莫大な費用をかけるかどうかです」と語っている。
そうしたこともあり、2011年3月の福島第一原発事故に際しては、原子炉建屋内の撮影や放射線量などの測定のために米国製ロボットが採用されている。

[参考資料]
  1. 「原発特殊任務、軍事ロボ出番 米ハイテク3社、支援へ動き 福島原発事故 」『朝日新聞』2011年04月01日朝刊
  2. 「原発無人ロボ、東電「いらぬ」 JCO事故後、30億円で開発→結局廃棄 」『朝日新聞』2011年05月14日夕刊
  3. 「業界慢心、ロボ頓挫 「原発で事故起きる?」 原子力災害用の遠隔操作ロボット 」『朝日新聞』2011年05月14日夕刊
  4. 「国産ロボット解体の訳 - 110億円投じて開発したのに」『週刊 アエラ』2011年05月02日

 

3.必要性・有用性視点から見た新製品開発の事例としての家庭用VTR


A.VTR 製品に関わる必要性・有用性
ユーザーによる撮影
1.子供の運動会の撮影
2.子供の演芸会の撮影
3.結婚式の撮影

テレビ番組の録画
4.TVの野球中継の録画
5.TVの映画番組の録画

録画済みビデオの再生
6.市販ビデオを購入しての再生
7.市販ビデオを借りての再生(レンタルビデオの再生)
8.他人が録画したビデオを借りての再生

B.VTR製品の有用性を高める関連事業
1.映画会社による映画コンテンツを利用した製品としてのビデオの製造・販売事業
2.テレビ局によるテレビコンテンツを利用した製品としてのビデオの製造・販売事業
3.映画会社やテレビ局の市販ビデオを利用したレンタル・サービス事業

C.VTR製品開発事例を理解するためのポイント
ポイント1>想定対象とする必要性・有用性の差異
「どのような必要性・有用性を第一の想定対象とするのか?」の違いで、どのようなProductの開発を目指すのかが異なる。またTechnologyをどのように利用するのかが異なる。
 
ポイント2>想定対象とする関連製品事業の差異
SONYのVTR製品(=βI)の製品開発コンセプトとビクターのVTR製品(=VHS)の製品開発コンセプトの差異は、両社のテレビ製品の技術的競争力=技術的性能の差異や、放送局用製品に関する競争力の差異とも関連していると考えられる。
すなわちTVのコア技術としてのトリニトロン技術で放送局用モニター製品や家庭用テレビ製品に関して強い技術的競争優位性を持っているSONYは、TV製品に関するそうした技術的競争力を生かすという視点から放送局用ビデオカメラ製品、放送局用VTR製品、家庭用ビデオカメラ製品、家庭用VTR製品に関する技術的イノベーションを推進している。
そうした製品事業の総合的展開という視点からSONYの製品開発戦略や技術開発戦略を理解する必要がある。
 SONYのPS3の開発コンセプトと、任天堂のWiiの開発コンセプトの差異もこうした視点から理解することができる。
 
ポイント3>同一Technologyに基づくProductの多種多様性 — Technologyの共通性 vs Productの異質性
上記のような想定対象の差異の結果として、同一のTechnologyに基づくProduct Developmentにおいても、企業によって異なるProductが生産されることになる。すなわち想定対象の差異に起因するTechnologyの利用の仕方・方向性の差異によって異なるProductになってしまう。
 その結果として、同一のTechnologyに基づく同一製品セグメントの製品であっても、互いに互換性のないproductが生み出される場合もある。
 
ポイント4>Value-Process-Resource視点からの理解
Product Developmentの方向性の規定要因としての、企業における基本的value(価値観)・value system(価値体系)の差異が、Productの技術的特性を規定している。
「軽薄短小」化の「画期的新製品の提供」をおこなうfirst-moverとしてadvantageの獲得を目指すSONY vs 「水道哲学」というvalueに基づき「良質な低価格品の提供」をおこなう松下電器=パナソニック

ポイント5>製品本体の製品競争力に対する関連製品の影響
バンドワゴン効果-VTR製品の年別生産台数に関する1980年代以降の差異の理由

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