問題文の内容の理解に関して、教員の想定外の「理解」に基づく答案が多かったので、少し厳しい採点となった。
なお「NHKが徴収しているのは、テレビ放送を受信する設備に対する受信料であって、テレビ放送の視聴サービスに対する対価としての視聴料ではない」ことを理解している答案は予想よりも多かった。すなわち、受信契約締結の法的義務は、「放送受信設備の設置」にともなって発生するものであり、「視聴サービスの利用」にともなって発生するものではないこと、それゆえ「NHKの放送をまったく視聴していない」としても、そのことを受信料拒否の理由にすることは法的には不適切な行為であることを理解している答案は予想よりも多かった。
前回の小テストで問題としていたのは、NHKの放送ビジネスに対するそうした法的義務の倫理的妥当性の根拠である。すなわち、「放送法による受信料の法的義務規定はどのような意味において社会的正義にかなっているのか?」「NHK受信料という法的義務を強制することの倫理的根拠は何なのか?」という問いに対する答えを期待していた。しかし法的義務の倫理的妥当性を適切に説明している答案はほとんどなかった。
すなわち、「NHK放送をまったく視聴していない」人々からも、「NHKが受信料を強制的に徴収することの社会的合理性はどこにあるのか?」に関して具体的に説明している答案はほとんどなかった。
そこで今回の授業では、「NHKが受信料を強制的に徴収することの社会的合理性」に関する批判的考察をおこなうこととした。
「放送事業が・・・国営企業又は公営企業のみで経営されると,国から独立して番組等を作成する放送番組の編集の自由,ひいては表現の自由との関係で問題を生じるおそれがある」
朝日新聞の本用語解説では「政府からの独立性や政治的な中立性を確保するため、受信料や寄付などで運営される」ものとして公共放送を定義している。
問a.裁判官の「政治」的中立性の担保の議論においては裁判業務を支える資金の出所が直接的には問題とはされないにも関わらず、なぜNHKの放送業務の場合にはそうしたことが問題となるのか?
問b.行政官僚の「政治」的中立性の担保の議論においては行政業務を支える資金の出所が直接的には問題とはされないにも関わらず、なぜNHKの放送業務の場合にはそうしたことが問題となるのか?
問c.放送法の第4条では、放送事業者に対して「一 公安及び善良な風俗を害しないこと。、二 政治的に公平であること。、三 報道は事実をまげないですること。、四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。」という4つの法的義務を課している。したがって政治的中立性はNHKだけでなく、民間放送事業者にも等しく課せられた法的義務である。
したがって「政治的中立性の確保」という目的の実現のためであれば、NHKだけではなく、民間放送局にも受信料を配分すべきではないのか?
言い換えれば、政治的中立性の確保ということだけから、受信料をNHKだけに独占的に配分することは正当化できないのではないか?
5月20日の小テストでは、資料4や資料5のような議論に対して、インターネットの社会的普及という視点からの批判を取り上げた。すなわち資料4のような議論は、「テレビ放送に関するユニバーサルサービスの提供が困難であった地上波アナログ放送時代では妥当するが、衛星放送やインターネット「放送」などの新しい技術的手段が登場した現代ではあまり適切ではない」という批判を取り上げた。
「ユニバーサルサービス」論によるNHK擁護論に対する批判としては、授業や小テストで論じたように、「放送」番組を提供する技術的手段としては、電波塔(放送塔)によるテレビ電波送信という従来的手段だけでなく、衛星電波やインターネット通信といった新しい技術的手段が利用可能である、というものがある。
放送衛星(Broadcasting Satelite)を利用するBS放送や通信衛星(Communication Satelite)を利用するCS放送は、一つの衛星で日本全国に番組放送が可能であるから、全国に同一の番組を届けるという点ではテレビ電波を利用する地上波デジタル放送よりも、かなり効率的な技術的手段である。
またインターネットは、電子メール、ホームページ閲覧(WEBページ閲覧)とともに、ニコニコ動画やYoutubeなど動画配信も可能な「汎用」的な通信手段として、もっと効率的な技術的手段である。インターネット「放送」であれば、ブラジルなど日本から遠く離れた海外でも自由に日本の放送番組を視聴することができるから、視聴者にとっては優れた技術的手段である。
「民営企業でのみ経営されると,放送事業が都市部に集中傾斜して,営利性の乏しいそれ以外の地域は顧みられなくなるおそれがある」
「協会は、公共の福祉のために、あまねく日本全国において受信できるように豊かで、かつ、良い放送番組による国内基幹放送(国内放送である基幹放送をいう。以下同じ。)を行うとともに、放送及びその受信の進歩発達に必要な業務を行い、あわせて国際放送及び協会国際衛星放送を行うことを目的とする。」
NHK「8Kスーパーハイビジョン」
http://www.nhk.or.jp/8k/
NHK「8Kスーパーハイビジョンとは?」
http://www.nhk.or.jp/8k/tech/index.html
NHK「2014 FIFA ワールドカップ ブラジル」 8Kスーパーハイビジョンパブリックビューイング(国内4会場)」
https://pid.nhk.or.jp/event/PPG0244003/index.html
ザテレビジョンWEB(2014)「ワールドカップは臨場感抜群の8Kで! NHKがライブパブリックビューイングを実施!!」2014年5月19日
http://news.thetv.jp/article/46855/
http://www.nhk.or.jp/bunken/summary/research/report/2006_11/061103.pdf
www.ndl.go.jp/jp/data/publication/issue/0516.pdf
(3)渡辺武達(1995)「メディアの公共性と公益性」『評論・社会科学』(同志社大学人文学会)52, pp.81-198
(4)放送の公共性に関する調査研究会(1990)『放送の公共性に関する調査研究会報告書』郵政省放送行政局, 115pp