経営技術論 2016.04.28

 
[今回の事項]
1. product conceptの具体化としてのproduct designを規定している諸要因
product innovationにおけるproduct designの選択・決定を規定している要因としては下記のようなものがある。
 
(1) 「技術」的要因
a.旧世代製品のdominant designに起因する技術的経路依存性
先行技術との関係による技術的スイッチングコスト・技術的制約 — 東日本と西日本における電源周波数の違い、京王線と井の頭線の線路幅の違い、直通運転の技術的可能性
b.製品の形状・機能・性能などに起因する技術的制約
ダイヤル式電話機における数字配列が1,2,3, — ,9, 0というように、9の後に0が来るようになっている理由
 
(2) 技術に関わる「法」的要因および「社会制度」的要因
法律(乗物に対する道路交通法の規制など)・政令・法的規格(日本工業規格、日本農業規格などのde jure standard)・法的ガイドラインなどの法的規制や公共的規制に起因するもの
液体ミルク、セグウェイなどのproduct innovationの社会的普及の制約要因としての法
 
(3) 技術に関わる「身体」的要因および「社会」的要因
数多くの人間の身体的形状のあり方に起因する規定
  1. はさみ、急須、電車の自動読み取り機などは右利きの人向けのproduct designになっている
  2. エレベーターにおける車椅子利用者向けの押しボタン配列は横向き配列のproduct designになっている
なお、product designに関する下記のような問いも、「右利きの人の方が多い」という社会的要因によって規定されていると考えられる。
  1. 「ダイヤル式電話機における数字配列1,2,3, — ,9, 0はなぜ反時計回り配列のproduct designになっているのか?」
  2. 昔のTVにおけるダイヤル式チャンネル選択装置における数字配列1,2,3, — ,9,10,11,12は、なぜ時計回り配列のproduct designになっているのか?」
 
2. アッターバックのドミナント・デザイン論的視点からの考察 — 「固定期」市場におけるdominantなproduct designの固定性
固定期には、ある特定の製品セグメントでは、特定のproduct designが市場でdominantとなっている。dominant designが変化するのは、先行の成熟市場の創造的破壊(creative destruction)が起きている市場の「流動期」、すなわち、radicalなproduct innovationが起きている革命的な時期だけである。そうしたdominant designの変化として、製品の「世代」的変化としてのproduct innovationを論じることができる。
例えば電話製品では、ダイヤル式電話機からプッシュホン式電話機への世代交代というradical innovationの時期に、旧来の「円環状」配列から、現在の電話機型「長方形」配列(3列4段方式)へとdominant designが変化した。
そして授業中に説明したように、米国などなどでのダイヤル式電話機における「数字とアルファベット文字の同時配置」というproduct designに起因する歴史的経路依存性により、電話機では123が上で0が最下段に来る現在の配列というように電卓とは異なるdominant designが採用されたのである。
 
(1) 数字キー配列
数字キー配列に関しては、「電卓」型配列と「電話機」型配列という二つの異なるdominant designが共に使われている。視覚障がい者団体は、どちらか一方への統一を要望しているが、数字キー配列に関してそうしたuniversal design的対応は現在のところはまだ取られてはいない。
 これに対してアルファベット文字入力のための文字配列に関しては、製品セグメントによる違いはなく、ほとんどの製品でQWERTY配列が採用されている。例えば、タイプライター製品(19世紀に発明され20世紀中頃まで広く使われた製品)セグメント、大型コンピュータ製品(1950年代から社会的普及を開始した製品)セグメント、PC製品(1970年代中頃以降に製品市場が立ち上がった製品)セグメント、ローマ字かな入力変換方式の日本語ワープロ専用機製品(1980年代-1990年代末まで広く日本で使われた製品)セグメント、電子辞書製品セグメントなどで、QWERTY配列がdominant designとなり、広く一般に使われている。
 
[考察してみよう。]
課題1 「数字キー」配列と「アルファベット文字キー」配列とでは、product designに関するdominant designのあり方がこのように異なる理由は何かを説明しなさい。
 
 
(2) アルファベット文字キー配列
アルファベット文字キー配列に関して、「QWERTY配列が技術的に最も優れているわけではない。
 英文入力のためのアルファベット文字キー配列としては、「QWERTY配列よりもDVORAK配列の方がより優れている」と一般的に言われている。また、日本語のローマ字かな変換入力のためのアルファベット文字キー配列としては「QWERTY配列よりもNECのM式配列の方がより優れている」というのが一般的見解である。
 GoogleがGodanキーボード配列を最近になり提唱しているのも、QWERTY配列よりも技術的に優れたキーボード配列のproduct designにより、AppleのiPhonとのdifferentiationを考えているからである。
 
[考察してみよう。]
課題2  DVORAK配列やNECのM式配列といった、QWERTY配列よりも優れたproduct designが一定の注目を浴びながらも、なぜ製品市場でdominant designのQWERTY配列に打ち勝つことができなかったのかに関して、きちんとその根拠がわかるように説明しなさい。すなわちDVORAK配列、NECのM式配列、あるいはその他の配列のどれか一つを取り上げて具体的かつ理論的に説明しなさい。
 
課題3  GoogleのGodanキーボード配列に関して、「DVORAK配列やNECのM式配列といった過去のproduct designと同じく、QWERTY配列に打ち勝つことができないのか?それとも、過去のproduct designとは異なり、QWERTY配列に打ち勝つことができるのか?」ということを具体的かつ理論的に説明しなさい。
なおその際には、20世紀以前の製品はハードウェア型キーボードであったのに、スマホではソフトウェア型キーボードに変化していることを考慮に入れた上で考察を加えなさい。
 

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[参考図]Godanキーボード配列
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