コトラーにおけるneedsとwantsの区別と連関に関する経営技術論的視点からの理解

1.コトラーは、マーケティングの中核的概念(core concept)として、needs, wants, demandという3つの次元の区別を下記のような形で論じている。
 
次元1>needs
「・・・を必要とする」という意味におけるニーズ、すなわち、「欠乏状態に関する認識」を意味するものとしてのニーズ
 
次元2>wants
「・・・を欲しい」という意味におけるニーズ、すなわち、「製品に対する欲求」を意味するものとしてのニーズ
 
次元3>demand
「・・・を購入する」という意味におけるニーズ、すなわち、「製品の購入行為」を意味するものとしてのニーズ
 
2.「生物学的な意味でのlifeに関わるニーズ」としての食事を例にとると、下記のようになる。
 
(1) 「needs」としての食事
「欠乏を満たす」という意味においてusefulなものとしての食事
[カロリー摂取、栄養摂取、水分摂取などの必要性に対応したものとしての食事、すなわち、人間の生命維持に役立つものとしての食事]
 
人間はカロリー、栄養、水分などが不足(欠乏)していると、生命維持に問題が生じる。生命維持のためには、カロリー、栄養、水分などを摂取する必要がある。すなわち、食べ物によりカロリー・栄養を摂取し、飲み物により水分を摂取することは、人間が生命を維持するのに役立つ。偏食や拒食症などのように食事によるカロリー・栄養の摂取量が必要量よりも不足していれば、すなわち、必要量を満たさない欠乏状態が持続すると、体を壊す。また何日も飲み物を取らず、水分摂取量が必要量よりも不足していれば、すなわち、必要量を満たさない欠乏状態が持続すると、死亡してしまう。(食べ物の中にも水分が含まれてはいるが、一般的には食べ物だけでは生命活動維持に必要な量の水分摂取ができない。)
 
(2) 「wants」としての食事
[健康な人間であれば一定の時間経過とともに空腹感により、食事をしたいと欲するようになる。]
人は「お腹がすいた」と感じ、「何かを食べたい」と欲するようになる。
 
(3) 「demand」としての食事
[人は財布の中に入っているお金(自分の収入の内で食事にまわせるお金)という制約の中で、「食べたい」モノを買う。]
焼肉、和牛ステーキ、焼き魚、日本料理、中華料理、フランス料理、ロシア料理、タイ料理、カレーライス、分子調理法による料理など、たくさんの「食べたい」モノの中から、人は自分の財布と相談しながら何を食べるかを決定する。
 
3.「生物学的な意味でのlifeに関わるニーズ」 vs 「社会次元的意味でのlifeに関わるニーズ」
 

a. コトラー自身は、needsを食物、衣服、住居(shelter)、安全、[社会的]帰属(belonging)、[社会的]評価(esteem)などといった人間的生存に必要なモノとの関係で規定している、そしてそれら人間的生存に必要なモノに関わる「基本的充足の欠乏を感じている状態(a state of felt deprivation of some basic satisfaction)」と規定している。

 A useful distinction can be drawn between needs,wants,anddemands. A human need is a state of felt deprivation of some basic satisfaction. People require food, clothing,shelter,safety, belonging, esteem,and a few other things for survival.These needs are not created by their society or by marketers; they exist in the very texture of human biology and the human condition.
[出典]Kotler, P.(1967,1994) Marketing Management, 8th Edition, Prentice-Hall, p.7
 

b.社会的lifeに関わるニーズと、生物的lifeに関わるニーズとでは、ニーズ充足に関わるあり方が異なる。
 なお食物、衣服、住居(shelter)、安全といったニーズは、社会的lifeに関わるニーズと、生物的lifeに関わるニーズという二つの側面を持つことに注意する必要がある。すなわち、「どのような食べ物を食べるのか?食べることができるのか?」、「どのような衣服を着るのか?着ることができるのか?」、「どのような住居に住むのか?住むことができるのか?」、「安全をどのように確保するのか?確保できるのか?」は、そうしたニーズの充足に関わる主体的認識の社会的存在被拘束性、ニーズ充足形態に関わる他者評価・社会的評価など、社会的lifeという視点からの考察が必要な側面を持っている。

 
カテゴリー: 理論的分析, 経営技術論 パーマリンク