日本科学史学会シンポジウム>歴史教育における科学史・技術史の教育的意義
佐野正博「歴史学の一領域としての科学史・技術史の教育的意義」

1.歴史学の一分野としての科学史・技術史の位置づけ ー 総合科学史・総合技術史との関連における「歴史における科学・技術」
 
2.高校の現行歴史教科書における科学史・技術史の取り扱いの現状と問題点
 
3.次期の高校学習指導要領における新必修科目「歴史総合」など歴史系科目の目標
次期の高校学習指導要領(2018年3月告示、2022年度施工予定)では、現代的な諸課題の形成に関わる近現代の歴史を取り扱う「歴史総合」(2単位)が必修科目とされ、「世界史探究」と「日本史探究」(各3単位)が選択科目とされている。
それらの歴史科目の共通目標は、「諸事象等の意味や意義,特色や相互の関連について,時期や年代,推移,比較,相互の関連や現代とのつながりなどに着目して,概念などを活用して多面的・多角的に考察したり,歴史に見られる課題を把握し解決を視野に入れて構想したりする力や,考察,構想したことを効果的に説明したり,それらを基に議論したりする力を養う」ことである。
なお「歴史総合」という新必修科目が構想されたのは、「グローバル化が進む今日、高校の歴史教育に求められるのは、「世界史」か「日本史」かの二者択一ではなく、グローバルな視野の中で現代世界とその中における日本の過去と現在、そして未来を主体的・総合的に考えることを可能にする歴史教育である。」[日本学術会議(2016) p.ii, p.1]という認識に基づくものである。
 
[関連参考資料]
1)文部科学省中央教育審議会(2016)「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」2016年12月21日
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/__icsFiles/afieldfile/2017/01/10/1380902_0.pdf
「各教科等において習得する知識や技能であるが、個別の事実的な知識のみを指すものではなく、それらが相互に関連付けられ、さらに社会の中で生きて働く知識となるものを含むものである。
 例えば、“何年にこうした出来事が起きた”という歴史上の事実的な知識は、“その出来事はなぜ起こったのか”や“その出来事がどのような影響を及ぼしたのか”を追究する学習の過程を通じて、当時の社会や現代に持つ意味などを含め、知識相互がつながり関連付けられながら習得されていく。それは、各教科等の本質を深く理解するために不可欠となる主要な概念の習得につながるものである。そして、そうした概念が、現代の社会生活にどう関わってくるかを考えていけるようにするための指導も重要である。基礎的・基本的な知識を着実に習得しながら、既存の知識と関連付けたり組み合わせたりしていくことにより、学習内容(特に主要な概念に関するもの)の深い理解と、個別の知識の定着を図るとともに、社会における様々な場面で活用できる概念としていくことが重要となる。」pp.28-29
「共通必履修科目である「歴史総合」については、(1)②で示した資質・能力を踏まえつつ、世界とその中における日本を広く相互的な視野から捉えて、近現代の歴史を理解する科目・ 歴史の推移や変化を踏まえ、課題の解決を視野に入れて、現代的な諸課題の形成に関わる近現代の歴史を考察する科目・ 歴史の大きな転換に着目し、単元の基軸となる問いを設け、資料を活用しながら、歴史の学び方(「類似・差異」、「因果関係」に着目する等)を習得する科目とすることが適当である。(別添3-8、別添3-9を参照)」p.134

2) 文部科学省中央教育審議会(2016)上記答申の別添資料3「社会、地理歴史、公民」
http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2017/01/10/1380902_3_1.pdf
  別添3-4 社会科,地理歴史科,公民科における「社会的な見方・考え方」のイメージp.13/28
「社会的事象の歴史的な見方・考え方」とは「社会的事象を時期,推移などに着目して捉え類似や差異などを明確にしたり事象同士を因果関係などで関連付けたり」することであり、「社会的事象の地理的な見方・考え方」は「社会的事象を位置や空間的な広がりに着目して捉え地域の環境条件や地域間の結び付きなどの地域という枠組みの中で,人間の営みと関連付け」ることである、とされている。

[関連参考資料1]
1)文部科学省中央教育審議会(2016)「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」2016年12月21日
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/__icsFiles/afieldfile/2017/01/10/1380902_0.pdf
「各教科等において習得する知識や技能であるが、個別の事実的な知識のみを指すものではなく、それらが相互に関連付けられ、さらに社会の中で生きて働く知識となるものを含むものである。
 例えば、“何年にこうした出来事が起きた”という歴史上の事実的な知識は、“その出来事はなぜ起こったのか”や“その出来事がどのような影響を及ぼしたのか”を追究する学習の過程を通じて、当時の社会や現代に持つ意味などを含め、知識相互がつながり関連付けられながら習得されていく。それは、各教科等の本質を深く理解するために不可欠となる主要な概念の習得につながるものである。そして、そうした概念が、現代の社会生活にどう関わってくるかを考えていけるようにするための指導も重要である。基礎的・基本的な知識を着実に習得しながら、既存の知識と関連付けたり組み合わせたりしていくことにより、学習内容(特に主要な概念に関するもの)の深い理解と、個別の知識の定着を図るとともに、社会における様々な場面で活用できる概念としていくことが重要となる。」pp.28-29
「共通必履修科目である「歴史総合」については、(1)②で示した資質・能力を踏まえつつ、世界とその中における日本を広く相互的な視野から捉えて、近現代の歴史を理解する科目・ 歴史の推移や変化を踏まえ、課題の解決を視野に入れて、現代的な諸課題の形成に関わる近現代の歴史を考察する科目・ 歴史の大きな転換に着目し、単元の基軸となる問いを設け、資料を活用しながら、歴史の学び方(「類似・差異」、「因果関係」に着目する等)を習得する科目とすることが適当である。(別添3-8、別添3-9を参照)」p.134
 
2) 文部科学省中央教育審議会(2016)上記答申の別添資料3「社会、地理歴史、公民」
http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2017/01/10/1380902_3_1.pdf
  別添3-4 社会科,地理歴史科,公民科における「社会的な見方・考え方」のイメージp.13/28
「社会的事象の歴史的な見方・考え方」とは「社会的事象を時期,推移などに着目して捉え類似や差異などを明確にしたり事象同士を因果関係などで関連付けたり」することであり、「社会的事象の地理的な見方・考え方」は「社会的事象を位置や空間的な広がりに着目して捉え地域の環境条件や地域間の結び付きなどの地域という枠組みの中で,人間の営みと関連付け」ることである、とされている。
 
3) 文部科学省初等中等教育局教育課程課教育課程企画室(2017)「今後の学習指導要領改訂に関するスケージュール」2017年5月12日
 
[関連参考資料2]
  1. NHKラジオ2017年12月5日(火)放送「高校日本史から信玄や龍馬が消える?」2018年2月5日(月) 午後8:00配信終了
    NHKラジオ「過去の「特集」を聞く」WEBページ(http://www4.nhk.or.jp/hitokoto/363/)の中ほどにリンクがあります、
    油井大三郎(東京大学 名誉教授、高大連携歴史教育研究会 会長)先生が出演され、今回の用語精選案の狙い・意図を約22分にわたって解説されています。

  2. 吉川慧(2016)「「脱ゆとり」明確化、高校では「歴史総合」を新設 指導要領改定で困惑の声も」HuffPost News、2016年8月1日
    http://www.huffingtonpost.jp/2016/08/01/gakusyu-sidou-youryou-kaihen_n_11292196.html
     指導要領の改訂の基本は「脱ゆとり」とされている。

  3. 原田智仁(2017)「次期学習指導要領の動向:歴史総合の可能性」『世界史のしおり』(帝国書院)2017年度1学期号、pp.8-9
    http://www.teikokushoin.co.jp/journals/history_world/pdf/201701g/06_hswhbl_2017_01g_p08_p09.pdf

  4. 梅津正美(2017)「次期学習指導要領の動向:「歴史総合」 の実践課題」『世界史のしおり』(帝国書院)2017年度2学期号、pp.8-9
    http://www.teikokushoin.co.jp/journals/history_world/pdf/201702g/05_hswhbl_2017_02g_p08_p09.pdf
    テーマの一例として、「技術革新と経営革新:アメリカ・フォードはなぜ成功したのか」が挙げられている。

  5. 日本学術会議 史学委員会 高校歴史教育に関する分科会(2016)「提言:『歴史総合』に期待されるもの」
    http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-23-t228-2.pdf
 
4.高大連携歴史教育研究会による歴史系用語精選提案のポイントと問題点
  1. 用語の取捨選択について、概念を重視しながら用語を精選するという方針で、科学者についてもできるだけ削減する方針でとりまとめられている。
  2. ただし、教科書で説明する際に個人の名前を入れないと説明が難しいという科学者については、用語として残されている。
    そのような観点からコペルニクスは残ったが、ガリレオやケプラーは人名用語として取り上げない。
  3. 従来の教科書に比べ、20世紀以降について拡充していることも特徴である。20世紀の科学者がアインシュタインまでで終わるのではなく、その後についても取り上げられている。
 
5.科学・技術の歴史に関する「学」的記述 vs 「高校教科書」的記述
「高校教科書」的記述としての「人類の過去を知ることなくして現在ならびに未来の諸問題に責任をもって対処することはできない。」[日本学術会議(2016) p.5]という文言をもじって言えば、「科学・技術の過去を知ることなくして、科学・技術の現在ならびに未来の諸問題に責任をもって対処することはできない。」ということになろう。
 
 
関連参考資料
  1. 「歴史総合」関連参考資料
  2.  
  3. 「高大連携歴史教育研究会」関連参考資料
  4.  
  5. 「文部科学省高校学習指導要領改訂」関連参考資料
  6. 現行学習指導要領
  7.  
  8. 関連参考資料メモ>
  9.  
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