日本科学史学会シンポジウム>歴史教育における科学史・技術史の教育的意義
木本忠昭「高校の歴史教育において技術史をどのように取り扱うべきなのか:技術史から見たいくつかの論点」

 
1.はじめに
2022年度に施工が予定されている次期の高校学習指導要領では、「歴史総合」が「地理総合」と並んで必修科目となる。「歴史総合」という科目は、「世界とその中における日本を広く相互的な視野から捉えて,現代的な諸課題の形成に関わる近現代の歴史を考察する科目」であり、「歴史の大きな転換に着目し,単元の基軸となる本質的で大きな問いを設け、諸資料を適切に活用しながら,比較や因果関係を追究するなど社会的事象の歴史的な見方・考え方を用いて考察する歴史の学び方を身に付ける」ことを目標としている
本報告では、いくつかの高校の「世界史」の現行の教科書において、どのような技術史的事項がどのように取り上げられているのかを分析することを通じて、技術の歴史が現にどのように描かれているのかを検討するとともに、技術の歴史がどのように取り扱われるのがより適切なのかを考えてみたい。

 

前提作業として、次の2点を基本的視点として確認しておく。

 

 第1の基本的視点は、「世界」史と技術史の関係についてである。そもそも、「世界」史(歴史)の構成分野には、政治史、社会・生活史、産業史、文化・芸術史等々の個別分野があり、技術史も本来はその一つである。しかし、実際の「書かれた」世界史(歴史)書には、技術史(的内容)は、殆どないか、断片的付け足しでしかない。世界史(歴史)に技術史は必要なのか、不要なのかということであり、必要ならば何故かを明確にしておかなければならない。

 

 第2の基本的視点は、歴史の流れを総合的に捉え近現代社会をよりよく理解し、将来を考える力を育成するという高校の歴史教育への社会的要請に応えるためには、技術の歴史における何をどのように取り上げるべきなのかを、歴史「通史」と技術史の連環から考えるということである。あえて換言的に言えば、技術史のための技術史でも、「歴史通史」でもないということである。

 

さて、学習指導要領から要請されている立脚点-近現代社会を理解し、将来を考える枠組としての手掛かりとしては、近現代社会における科学および技術の社会変化・社会影響の増大化を無視することができないことについては、おおかたの同意をえられるのではなかろうか。しかし、「技術一般」が、社会変化を起こした(影響した)わけではなく、社会変化の要因となったのは、個々の技術であり、それらの技術の歴史的な連鎖は逆に社会的諸関係の中で推し進められてきたのである。単なる技術史的「史実追求史」ではなく、「社会は技術(技術変化)によってどのように成り立ち、また変化してきたのか?逆に、技術は社会諸関係によってどの様なものになってきたのか、また現になっているのか?そして、そのような技術によって社会と人間はどの様な事態に直面しているのか?」を考えるためには、どのような史実が提示されるべきであろうか。

 
2. 現行教科書の技術史的内容と問題点
現行教科書で技術史的事項がどのように取り上げられているか、 いくつかの教科書をみてみたい。
 
3. おわりに
 

How Should We Teach History of Technology in High School Historical Education? – Some points from the viewpoint of History of Technology
Tadaaki KIMOTO
 
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