したがって仮にテレビを持っていなくてもワンセグ放送を受信できる携帯電話をもっていれば、ワンセグでNHKのテレビ放送をまったく見ていないとしても受信料を支払う義務が法的には存在している。
2010年改正の放送法は、放送の定義を「無線通信の送信」から「電気通信への送信」に変更したことによってYouTubeやGyaoなどでなされているようにインターネットを利用した番組送信をNHKが公衆(不特定又は多数の者)に対しておこなう場合には、NHKはインターネットを利用して放送をおこなっている、と解釈すべきように思われる。
ただしNHKは、NHKビデオオンデマンドhttps://www.nhk-ondemand.jp/においておこなっているインターネットを利用したテレビ番組の配信サービスは、「放送」ではなく「通信」である、としている。( ) このようにNHKオンデマンドは「放送」ではなく「通信」であるから、受信契約の義務は現在のところ法的には存在していない。
しかしながらNHKがインターネットを利用して公衆(不特定又は多数の者)に対して番組の送信を開始した瞬間に、ネットに接続されたPCに対して放送を開始したことになり、ネットに接続可能なPCにはNHKの受信契約の義務が法的に発生することになると考えられる。
ここでの放送と通信の区別に関する基本的論点は、放送は公衆に対するものであるということにある。すなわち、放送は公衆によって直接受信されるものであるのに対して、NHKオンデマンドはそれを求めている特定の者に限定した受信であるから、NHKオンデマンドは「放送」ではない、とされている。( )
しかし「番組送信の対象が公衆(不特定又は多数の者)か否か」という基準は単純ではない。そのことは、まねきTVに関する2011年1月18日の最高裁判決に示されている。というのは、同判決では、番組送信の主体であるまねきTVから見ると、「サービスの利用者は不特定の者として公衆に当たる」のであるから、「公衆の用に供されている電気通信回線に接続することにより,当該装置に入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的に送信する機能を有する装置は,これがあらかじめ設定された単一の機器宛てに送信する機能しか有しない場合であっても,当該装置を用いて行われる送信が自動公衆送信であるといえるときは,自動公衆送信装置に当たるというべきである」とされているからである。すなわち最高裁判決は、まねきTVが利用しているソニーの「ロケーションフリー」機器の個々のマシンは、あらかじめ決められた特定の端末との1対1の送受信をおこなうものであり、不特定の者や多数への送信をおこなうものではないけれども( )、まねきTVは不特定多数のユーザーと契約を結び、番組送信サービスを提供しているのであるから、まねきTVという番組送信主体からみてユーザーは不特定の者として「公衆」に当たる、という論理構成を取っている。
こうした論理構成を認めるとすれば、NHKオンデマンドは個々の番組送信行為は1対1の送受信であり特定の者への送信であり、不特定の者や多数への送信をおこなうものではないけれども、NHKオンデマントは不特定多数のユーザーと契約を結び、番組送信サービスを提供しているのであるから、NHKという番組送信主体からみてユーザーは不特定の者として「公衆」に当たることになる。それゆえ、最高裁判決の論理構成に従えば、NHKオンデマンドはテレビ番組の公衆送信、すなわち、放送に該当すると論理的に帰結せざるを得ない、と思われる。
しかしこうした解釈は、衆議院総務委員会での審議に見られる明示的な合意と矛盾しているように思われる。
関連記事>NHK(2011)「NHK受信料の窓口-よくいただく質問 – パソコンや携帯電話でテレビ(ワンセグを含む)を見る場合も、受信料を支払うの?」
http://pid.nhk.or.jp/jushinryo/know/qa.html#q6
ただし、受信契約は世帯単位となりますので、一般の家庭でテレビの視聴が可能なパソコン、あるいはテレビ付き携帯電話を含めて、複数台のテレビを所有している場合に必要な受信契約は1件となります。
一方、事業所の場合は、従来どおり設置場所ごとの受信契約が必要となります。
関連記事>hylom(2010)「放送法改正でPCは放送受信機になるか?」2010年03月24日 17時33分掲載
http://slashdot.jp/article.pl?sid=10/03/24/0728256