経営技術論2014.4.25

[前回の授業内容]経営技術論2014.04.18
[次回の授業内容]経営技術論2014.05.02

[授業配付資料]

(1) ニーズという単語の意味の曖昧性 — necessity/usefulness-wants-demand の区別の必要性
(2) necessity/usefulness とwants の区別
(3) wants とdemand の区別
(4) wants の対象ではあっても、demand の対象とはならなかった製品の具体的事例
ex.1 第二次世界大戦後に日本で初めて開発された旅客機であるYS11
ex.2 イギリスとフランスが共同開発した超音速旅客機コンコルド
ex.3 三井造船が事業主体となって開発を進めた「次世代」高速船・テクノスーパーライナー(TSL)
 
(1) ソニーの初期テープレコーダーの場合
a.顧客に対する教育を通じた製品販売
b.テープレコーダーの有用性に関する事後的研究
c.市場創造(Market Creation)としての、顧客における有用性認識の形成 — 製品の有用性の宣伝による、需要の形成・拡大
 
(2) 初代ウォークマン「TPS-L2」の場合
a.新聞記者向けの新製品発表会に対する新聞社の対応 — ウォークマンの有用性に対する社会的認知度の低さ
b.顧客に実際に体験してもらうことによるウォークマンの有用性に対する社会的認知の形成— 「この商品は、まず聴いてもらって良さを分かってもらわないと、話が始まらない」 —
c.ロジャースのイノベーション普及理論における「イノベーター」or「オピニオンリーダー」としての丸井の購買担当者
 
(3) メインフレーム・コンピュータ(大型計算機)の場合
a.メインフレーム・コンピュータの革新的有用性に関する社会的認知
b.メインフレーム・コンピュータの用途を教えることができる人材の新規採用、および、セールスマンと顧客に対する教育
 
(4) パーソナル・コンピュータの場合
a.エバンジェリスト(evangelist)の活用
b.ユーザー教育の場の設定
c.テレビ・ゲームの場合
 

[授業内容]

1. Product-Module-Parts-Materialの階層性
(1)moduleそれ自体も様々なsub-module、あるいは、様々なparts,materialから構成されている。
Material
←←←製造装置/製造技術
Parts
←←←製造装置/製造技術
Product

 

[参考資料]

  1. 柏尾南壮(2013)「iPhone 5sとiPhone 5cの“革新性”を分解して知る (1/3)」
    http://www.itmedia.co.jp/mobile/articles/1310/16/news063.html

  2. EE Times Japan(2013)「iPhone 5s/5cのBOMコスト、差は10ドル」EE Times Japan、2013年09月25日
    http://eetimes.jp/ee/articles/1309/25/news068.html

  3. Andrew Rassweiler, Wayne Lam (2013) “Groundbreaking iPhone 5s Carries $199 BOM and Manufacturing Cost, IHS Teardown Reveals,”iSuppli Press Release September 25, 2013
    https://technology.ihs.com/451425/groundbreaking-iphone-5s-carries-199-bom-and-manufacturing-cost-ihs-teardown-reveals

  4. Andrew Rassweiler(2012) “Many iPhone 5 Components Change, But Most Suppliers Remain the Same, Teardown Reveals” iSuppli Press Release, September 25, 2012
    https://technology.ihs.com/411502/many-iphone-5-components-change-but-most-suppliers-remain-the-same-teardown-reveals

  5. 日経エレクトロニクス分解班(2013)「【PS4分解その4】大きな導光板を発見」日経テクノロジーOnline2013.11.15
    http://techon.nikkeibp.co.jp/article/FEATURE/20131115/316568/

  6. 日経エレクトロニクス分解班(2013)「【PS4分解その5】シンプルなメイン基板」日経テクノロジーOnline2013.11.15
    http://techon.nikkeibp.co.jp/article/FEATURE/20131115/316632/

  7. 日経エレクトロニクス分解班(2013)「【PS4分解その6】メイン基板上の部品を見てみる」日経テクノロジーOnline2013.11.15
    http://techon.nikkeibp.co.jp/article/FEATURE/20131115/316636/

 
 

(2)様々なTechnologyから構成されているProductとしてのPC、スマートフォン、ゲーム専用機
TechnologyはProductの機能や性能の規定要因/制約要因であるが、同一のTechnologyを用いるにしても多様なProductが可能。
ガソリン自動車は、ガソリン・エンジンというTechnologyを共通に用いているが、多様な機能・性能を持った多様なProduct Designが存在する。
ガソリン・エンジンの排気量は機種によって大きな差がある。

スマートフォンは、液晶技術、電池技術を共通に用いているが、液晶ディスプレイの大きさやコントラスト比に差異が存在するし、電池の容量も差異がある。

2.「needs」(広義)に関するコトラー的分類
(1)「・・・を必要とする」「・・・が有用である」という狭義の needs[必要性・有用性]に関する認識— ProductのFunction,Performanceに対する認識
水分不足なので水分を補給する必要がある。
 のどが渇いているので、すぐに水を飲むことが健康維持のために有用である。
 栄養分不足なので栄養分を補給する必要がある。
 栄養分が不足しているので、すぐに栄養分を補給することが健康維持のために有用である。
 
(2) 「・・・を欲しい」というwants[欲求・衝動]— Productに対する欲求・衝動
激しい運動をして汗をかき、のどが渇いたので、何かスポーツ飲料を飲みたい。
今日はとても暑い日なので勤務終了後に冷たいビールをグイと飲みたい。
お腹が空いたので、食事をしたい。
 
(3) 「・・・を購入する」というdemand[需要]— Productに対する需要
お腹が空いたが、給料日前でお金が足りないので、夕食は吉野家で牛丼を食べることで我慢する。
給料日でお金にかなり余裕があるし、おいしい料理をたくさん食べたいので、きちんとしたレストランでフランス料理のフルコースを食べることにする。
 
3.コトラー的分類に対する経営技術論的視点からの用語修正
狭義のneedsという用語の代わりに、necessity/usefulnessという用語を用いることにする。また授業では強調してはいないが、コトラー的分類ではneedsを「認識」次元でのみ取り扱っているのに対して、経営技術論ではnecessity/usefulnessという客観的規定とそれに対する主観的認識とを区別する取り扱いをおこなう。
これはnecessity-oriented innovationやusefulness-oriented innovationにおいて、研究開発の開始時点ではまだ知られてはいないnecessityやusefulnessを解明・認識することから始まる場合もあるためである。特に「新しい病気」の発見(新しい病気メカニズムの発見)に基づいて、新しい治療薬を開発するような製品イノベーションでは、未だ認識されてはいないnecessityやusefulnessが対象となっているからである。
 

このことに関して、P&Gの「消費者起点が革新の原点:お客様を深く理解することが、すべてのイノベーションの出発点です。」というWEBページでは、下記のように、顧客が認識していないニーズの分析ということを挙げている。

「多角的な視点からお客様を理解するために、調査手法も多様です。インタビューやアンケートのほか、お客様の日々のお買い物や家事の様子を見せていただくこともあります。お客様ご自身も気づいていない真のニーズを知るためには、日々の暮らしや価値観を深く掘り下げ、プロの視点から必要なもの導き出す必要があるためです。」
[出典]http://jp.pg.com/innovations/consumer.jsp、2014年5月26日アクセス

 

4.「needs」概念の経営技術論的分析に対応したイノベーションのタイプ分類
needs-oriented innovationというような一般的用語で指し示されている現象は、経営技術論的にはかなり性格が異なる多種多様な形態のイノベーションを含んでいる。経営技術論的にはイノベーションのタイプ分類に関して、下記のような3分類を分ける必要がある。
× needs-oriented innovation

1) necessity-oriented innovation、usefulness-oriented innovation
2) wants-oriented innovation
3) demand-oriented innovation(Market-oriented innovation)

配付資料にある「第二次世界大戦後に日本で初めて開発された旅客機YS11」は、どちらかと言えば日本人技術者、日本の飛行機メーカー、飛行機分野での戦後復興を求める日本人(国内の飛行機産業の育成を図りたいと考えている政府関係者)など「自国製の飛行機が欲しい」というwantsに導かれた製品イノベーションとしてwants-oriented innovationであったが、さまざまな要因からビジネス的成功を収めることはできなかった。
「イギリスとフランスが共同開発した超音速旅客機コンコルド」や「三井造船が事業主体となって開発を進めた「次世代」高速船・テクノスーパーライナー(TSL)」は、輸送機関の速度向上による移動所要時間の短縮というusefulness向上を実現した技術的イノベーションとしてusefulness-oriented innovationであったが、製品の高性能性の実現にともなう高コスト性の結果としてビジネス的成功を収めることはできなかった。

授業中にusefulness-oriented innovationとして位置づけられる上記以外の事例として、「カセット・ウォークマン」、「曲げられるディスプレイ」「曲げられるCPU」などを挙げた。

「曲げられるディスプレイ」
週刊アスキー編集部(2013)「スマホ向け8コアCPU『Exynos5 octa』をサムスンが発表」週アスPLUS、2013/01/14
weekly.ascii.jp/elem/000/000/123/123716/?

「ディスプレーの分野では、サムスン電子サンノゼディスプレー研究所のブライアン・バクレー上席副社長がプレゼンを行なった。/観客が最も沸いたのが、サムスン電子が開発を進めているフレキシブル・ディスプレー『YOUM』を紹介したときだ。『フレキシブル』の名の通り、フィルム上で自由に形を曲げられるため、スマートフォンやタブレットに画期的なデザインをもたらせるという。/バークレー氏が紹介したのがディスプレーが本体正面だけでなく、曲がった状態で端末の側面まで伸びているというものだ。カバーをかぶせても、ふちの部分にディスプレーがあるため、メールの着信、テキストなどを確認できるようになっている。上映されたイメージビデオでは、画面を2つに折りたたんだものや、細長い棒状のものから丸まっているディスプレーが飛び出してくる、といったシーンが紹介された。
 

「「曲げられる無線回路の利点とは・・・」、半導体エネルギー研とTDKが語る」2005年12月13日
http://www.nikkeibp.co.jp/archives/417/417768.html
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20051212/111550/

 

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