ソニーの初代カセット・ウォークマン(1979)に対する「ニーズ」

ソニーのカセット・ウォークマンは、1979年7月に第1号機が発売開始されて以来、生産・販売終了の2010年3月末までの約30年間に約2億2千万台が売れた。
 
 しかしながら、1979当時、初代カセットウォークマンの事業化・販売開始に反対の声も強かった。
 
 テーブレコーダー事業部長としてカセット・ウォークマンの製品開発を指揮した大曽根幸三(元ソニー副社長)氏は、「社内の営業販売部門や系列販売店が認めてくれなかった。発売は決まったのに「録音できないテレコなんて売れるわけがない」とけなされ続けた。市場に受け入れられないことを調査で実証しようという動きももあった。四面楚歌でつらかった」(「街の風景が違って見えた日 1979年7月1日 ウォークマン発売」(昭和史再訪)『朝日新聞』2009年12月5日夕刊 5ページ、東京本社)と証言している。
 
 そのことは、ソニーの社史(下記WEBページ)でも紹介されている。
 
 
 
このように、初代カセット・ウォークマンの販売開始に当たって、ソニー社内の営業部門や系列販売店が否定的で、「録音できないテレコなんて売れるわけがない」とけなされた。
実際、初代カセットウォークマンは、販売開始当初は、下記のようにあまり芳しい売れ行きではなかった。
 
1979年6月22日。ソニーから「新製品の発表がある」という通知を受けた雑誌記者たちは、東京・銀座のソニービルに集まった。ビルの前にはバスが用意され、バスの中で、彼らの手にヘッドホンの付いた小さなカセットテープレコーダーのような「新製品」そのものが渡された。代々木公園に到着すると、ソニー側からの挨拶の後、「お渡しした機械の再生ボタンを押してください」というアナウンスがあった。ヘッドホンからは、音楽とともに新製品「ウォークマン」の商品説明がステレオで流れた。

 ヘッドホンの音に集中するマスコミの人たちの前では、「ウォークマン」とプリントされたお揃いのTシャツを着た宣伝部のスタッフやアルバイトの男女学生が、ウォークマンを思い思いに楽しむデモンストレーションを続ける。

 ヘッドホンから声が流れる。「ご覧ください。若い2人はタンデム(2人乗り自転車)に乗ってウォークマンを楽しんでいます」。記者の目の前を、ウォークマンを付けた男女の若者がタンデムに乗って楽しそうに走り抜けて行く。

 記者たちは、新製品の概要を知ると同時に、実際にヘッドホンから流れる音を聴き、目でも確かめていた。“ウォークマン”「TPS-L2」。ヘッドホン再生専用、手のひらサイズのステレオカセットプレーヤーで価格は3万3000円。いつでも、どこでも、自分の好きな音楽を、ステレオで好きなだけ楽しめるという。

 ヘッドホンを外してみれば、何のアナウンスも聞こえない静かな発表会だった。記者たちは、この変わった新製品発表会の「意外性」に、驚きの表情を見せていた。

 しかし、マスコミ紙面の反応は冷ややかだった。新聞はほとんど無視、載せても本当に申し訳程度の記事である。7月1日に予定どおり発売したものの、7月が終わってみると、売れたのはたったの3000台程度だった。
[出典]前掲WEBページ

 
 上記のように1979年7月1日販売開始の一ヵ月での販売台数は約3千台にとどまった。しかしながら下記に記載したように、しばらくして売れ始め、8月末までには初回生産台数3万台が売れた。その結果として「品切れ店続出という状態が6ヵ月間も続いた」とされる。
 
 大々的なテレビCMを展開することはなかったが、こうした工夫をこらした広告・宣伝活動は見事に当たり、評判は口コミで広がっていった。初回生産の3万台は8月いっぱいで売り切れ、今度は生産が追いつかなくなってしまい、品切れ店続出という状態が6ヵ月間も続いた。「こんな録音機能のないものは……」と否定的だったのが嘘のように、「早くくれ、早く」とあちらこちらから嵐のような注文が来る。
[出典]前掲WEBページ
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